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第9回:2030年にAGI(汎用人工知能)は実現するか?
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2025.12.11
本田 えり子、比屋根 一雄

昨今、AI企業の急速な進化と巨額投資のニュースを目にしない日はないだろう。中でも議論の的となっているのが、AGIの実現時期である。特に2030年という区切りは、テック業界の多くの関係者が意識する一つの大きなベンチマークとなっている。本コラムでは、AGIをめぐる言説、定義、実現を後押しする要因、実現を阻むリスクを整理し、ビジネスパーソンがどのように構えるべきか考える。

1. AGIや超知能(Superintelligence)にまつわる言説と実現に向けた巨額投資

AGIやさらにその先のSuperintelligenceの実現を巡っては、テック業界やAI研究のトップランナーたちから、楽観論と悲観論が入り混じる多様な見解が示されている。
その代表例として、OpenAIのSam Altman氏やAnthropicのDario Amodei氏の発言が挙げられる。2025年10月にAltman氏は、インターンAI研究者を2026年9月、真に自動化されたAI研究者を2028年3月に実現すると発言している。また、2025年3月にAmodei氏は、自身のAGIの定義である「Powerful AI」が2026年後半か2027年前半に実現すると発言している
一方、OpenAI創業メンバーの一人であったAndrej Karpathy氏は、AGI到達までには10年を要すると見ており、「2025年は『エージェントの年』ではなく、『エージェントの10年の始まりだ』」と述べている。彼の見解は、楽観論者よりは悲観的でありながらも、AGI懐疑論者よりは楽観的という、現実的な時間軸を示唆するものだ。
さらに、MetaのチーフAIサイエンティストであり深層学習研究の第一人者であるYann LeCun氏は、LLMには例えば物理的世界を理解する能力など知能に不可欠な要素が足りないため、その延長にAGIはないと主張する。AGIの実現には感覚と行動に基づく世界モデルの構築が不可欠で、到来は少なくとも10年以上先と見ている
このように2030年のAGI実現には両論あるものの、OpenAIやAnthropicなどのAI企業は、その実現を強く確信しているように見える。そして、彼らのビジョンに基づきMicrosoftやNVIDIAといった巨大企業がAGIの実現に向けた巨額投資を加速させている実態がある。

2. AGIとは何か

話を進めるために、まずAGIの定義を整理しておく必要がある。AGIに関する議論が混乱する一因は、その定義が多様で定まらないまま議論される点にある。
最も代表的な定義は「人間のあらゆる知的能力を備えたAI」であるが、人間の知的能力の幅は広すぎるため、これをベースに議論を進めるのは困難である。
AGIにも段階がある。DeepMindの研究によるとChatGPTのように高性能な対話が可能な「新興AGI」から、人間をはるかに超える「超人AGI」まで進化する。単一タスクならば囲碁名人級のAlphaGoは達人、ノーベル化学賞を受賞したタンパク質構造予測のAlphaFoldは超人といえるが、いずれも汎用AIではなく用途特化型AIである。
本コラムで議論のベースとしたいのは、表に示す5段階のうち「多くのタスクで熟練成人と同等」という定義の「有能AGI」である。これは、仕事における多くの知的タスクで、経験を積んだ成人と同等の仕事ができるAIをAGIと見なすものである。この定義を採用する理由は、このレベルのAGIが実現した場合の経済的インパクトが極めて大きいためである。

【表 AGIの段階】

出所:Meredith Ringel Morris, et. al, “Levels of AGI: Operationalizing Progress on the Path to AGI”、https://arxiv. org/html/2311. 02462v3 (2025年10月10日閲覧)

3. テック企業が2030年前後のAGI実現を信じる理由

なぜ、テック企業は2030年前後のAGI実現を確信しているのだろうか。その理由は大きく二つある。

  1. (1)AI研究を自ら遂行する「自己改善AI」の登場一つ目の理由は、AI自身がAI研究を遂行し、自らを改善していく能力の飛躍的な向上である。AIが自律的にソフトウェア開発を遂行できる時間数は飛躍的に伸びており、2027年には人を超えたコーダーにまで到達すると予測されている。AI自身が自らを改善できるようになることは、AI進化を指数関数的に加速させる最も強力なドライバーと見なされている。
  2. (2)AGI到達に必要な計算量の確保二つ目の理由は、AGI実現に必要な計算量の確保に目途が立ち始めていることである。AGIを実現するには現状の約1000倍の計算量が必要と言われている。この実現を可能とする要因として、以下の3つがある。
    1. 1. GPU性能の向上
    2. 2. 学習用GPUの台数
    3. 3. 基盤AIモデル性能の向上

GPUの性能は年1. 8倍程度で向上しており、このペースでいけば2030年には約20倍の性能向上が実現される。次に、並列計算できるGPU台数は現在10万基、2030年には100万基規模と予想されている。そして、基盤AIモデル性能の向上は年2倍程度で向上しており、2030年には約30倍の性能向上が実現する。
これらをすべて掛け合わせると5年間で計算量が約6,000倍となり、AGI到達に必要とされる、現状の1000倍の実現に十分見込みが立つのである。

4. AGI実現の後倒しリスク

楽観的な予測がある一方で、リスクも存在する。

  1. (1)インフラ整備の遅れ一つ目は、電力不足、データセンター建設の遅れ、AI半導体供給不足といったインフラ整備の遅れである。特に米国では、電力不足とデータセンター設置の遅れが目立っており、中東やインドにもデータセンター建設の投資が集まる状況になっている。半導体については、NVIDIAが増産計画を出し、それでも足りないという声は大きいが、代わりにAMDやGoogleの自社ASICなどが伸びれば全体として不足が解消される可能性がある。電力不足については多様な確保策が図られているが、今のところ明確な解決策は見えておらずボトルネックとなる可能性がある。
  2. (2)巨額AI投資のバブル崩壊リスク二つ目は、巨額AI投資のバブル崩壊リスクである。OpenAIが計画するAIインフラ投資の規模は総額1兆4000億ドル(約210兆円、1ドル=150円換算、以降も同様)にのぼるとされ、企業価値である約5000億ドル(約75兆円)の2. 8倍に相当する。現状赤字経営のOpenAIが自社で賄える規模ではないため、この資金はソフトバンクやMicrosoftという大口の出資企業に加え、NVIDIAから最大1000億ドル(約15兆円)、AMDから発行済み株式の約10%(約350億ドル、約5兆円)といった半導体企業などの資金力活用によって賄われている。
    AI企業が調達資金で半導体を購入するという循環的な取引は、2000年前後に起きたITバブルに類似しているという指摘がある。当時のITバブルでは、通信機器大手が資金力に乏しい顧客に融資して購入を支え、実需よりも投資規模が膨らみ、バブルが終わると融資が焦げ付いたという経緯がある。現在のAIブームは技術革新を伴う実体あるバブルと評されるが、ベンダーファイナンス、株式予約、証券化など金融手法を駆使した資金調達により金融バブル化すると危ういという側面が強まっている。11月に入り、NVIDIA、MicrosoftなどのAI関連銘柄の株価下落も起きている。
  3. (3)AIによる収益向上が期待ほど実現しないリスク三つ目のリスクは、全産業に拡がるであろうAIを活用する側の企業における収益向上が期待ほど実現しないことである。ベインアンドカンパニーのレポートによると、必要な計算能力を賄うデータセンターの建設には年5000億ドル(75兆円)の投資が必要でありその投資を賄うためには年2兆ドル(300兆円)の売上が必要とのこと。しかし、仮に企業がオンプレミス環境向けのIT予算をすべてクラウドに振り替え、さらにAI導入によって営業、マーケティング、顧客サポート、研究開発で生まれると予想される約20%のコスト削減分を、新しいデータセンターへの設備投資に再投資したとしても、必要な収益には8000億ドル(120兆円)が不足すると報告されている。投資を正当化するためには、AIを中核とした新しいサービス市場が立ち上がる必要があるが、その具体的な姿はまだ見えていない。また、AIによる生産性向上自体も、多くの企業や業務で容易に達成できるわけではないという見立てもある。

5. ビジネスパーソンはどう構えるべきか

テック企業が言う通り2030年にAGIに到達する可能性は高まっていると言えるが、一方ではそれを後倒しするリスクも多く、AGI実現時期を正しく予測することは難しい。しかし、ビジネスパーソンにとって重要な事実は、AI企業が掲げるAGI実現のビジョンが投資を呼び、それがAIの技術革新を加速しているということである。加速度的に技術が使えるレベルに進化しているため、AGI の到来を待たずとも、人の仕事がAI前提で再設計されるという業務・組織改革は始まっているのである。例えば、プログラミング業務ではコード生成AIの導入が進み、カスタマーセンターでは通話記録の要約や定型的な質問への応答に生成AIが使われているのがその具体例である。
よって、AGI の実現時期がいつになるかに関わらず、重要なのは現時点で利用可能なAIをいち早く取り入れ、業務やプロセスを変革して競争優位を築くことである。その一方で、AGI の進捗や実現状況を継続的にアップデートし、長期的な戦略に反映させることも必要だ。つまり、短期的にはその時々に入手可能な技術を最大限に活用して成果を出しつつ、中長期的な技術動向も並行してウオッチし試してみる。この短・中期の二段構えの実行が最も現実的かつ有効な対応である。

  1. Sam Altman, https://x.com/sama/status/1983584366547829073(閲覧日:2025年11月11日)
  2. Dario Amodei, https://www.darioamodei.com/essay/machines-of-loving-grace(閲覧日:2025年11月11日)
  3. Dwarkesh Podcast, https://www.dwarkesh.com/p/andrej-karpathy(閲覧日:2025年11月11日)
  4. Lex Fridman, https://www.youtube.com/watch?v=5t1vTLU7s40&t=5s(閲覧日:2025年11月11日)
  5. Daniel Kokotajlo, Scott Alexander, Thomas Larsen, Eli Lifland, Romeo Dean, AI 2027, https://ai-2027.com/research/timelines-forecast(閲覧日:2025年11月11日)
  6. Bain & Company「Technology Report 2025」https://s3.amazonaws.com/media.mediapost.com/uploads/BAIN_report_technology_report_2025.pdf(閲覧日:2025年11月11日)

筆者

筆者 BA・AI事業部門 事業ディレクター(BA・AI担当) 本田 えり子
本田 えり子
株式会社三菱総合研究所
BA・AI事業部門 事業ディレクター(BA・AI担当)

マーケティングを中心として、幅広い業種・分野でのAI・データ活用コンサルティングを行っています。技術やデータを使うことが目的化しがちですが、企業の生産性や生活者への提供価値を高めるためにどう技術を使えばよいのか、常に意識しながらプロジェクトを進めています。

筆者 研究理事 比屋根 一雄
比屋根 一雄
株式会社三菱総合研究所
研究理事

IT歴50年、AI歴30年。オープンソース活動家の顔もありました。今は研究理事として、企業のAI活用支援やAIソリューション開発を担っています。AIの行く末に、一抹の不安を覚えつつ、大きな期待をかけています。

※部署/役職は公開時点のものであり、現在と異なる場合があります。

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