AIにより買い物のあり方が変わろうとしている。我々が今目撃しているのは、ChatGPTのようなAIチャットのパーソナルアシスタント化であり、購買はその最たる用途だ。AIは消費者の立場に立って最適な商品選定を支援し、消費者はECサイトを訪れることなく買い物を終えられるようになりつつある。これはゼロクリック購買と言われ、小売業界のゲームチェンジャーとなる動きとして注目されている。
現状、AIはあくまでアシスタントにとどまっており、最後に選択するのは「人」である。しかし、AIによる商品検索・価格比較・評価の先には、商品選択や価格交渉までをも行う自律型購買AIエージェントがある。これが実現した時、あなたの顧客には「AI」が加わり、人だけでなくAIに向けたマーケティングを行う必要が出てくる。生成AIによる回答の中で自社が優位に参照されるようにする手法はGEO(Generative Engine Optimization)と呼ばれ既に利用が広がっているが、これに留まらない対応が求められる。
本コラムでは、予兆となるテック企業の動き、新たな買い物スタイルの普及状況、AI購買の安全・信頼性を支える基盤構築動向を整理し、マーケティング部、DX部、経営企画部の方々が数年後を見据えてどのように備えるべきか考える。
出所:OpenAIニュースリリース、 Amazon ECアプリを参考に三菱総合研究所が作成
1. 変革の予兆、ChatGPT内で完結する買い物
米国で2025年9月にリリースされたOpenAIの「Instant Checkout」では、「最近ダイエットに熱心な母への誕生日プレゼントは何がいい?」と聞くだけで、ChatGPTが条件にあう候補を挙げて評価するだけでなく、直接購入まで行えるようになっている。通常の購買プロセスのうち、商品検索、価格比較、評価をAIエージェントが代替しているのだ。消費者は個別のECサイトにアクセスすることなく買い物を完了できる。
米国小売大手のWalmartは2025年10月14日にOpenAIとの提携を発表。「Instant Checkout」を使い、Walmartでの買い物をChatGPT内で完結できるようにした。OpenAIは手作り品サイトEtsyやECプラットフォームのShopifyとも提携しており、利用者はChatGPTを通じて各社からシームレスに商品を購入できる。
2. 対抗するECプラットフォーマー
EC側は手をこまねいているわけではなく、先行して手を打っている。Amazonは同社の商品とWeb上の情報を学習した生成AI購買アシスタント「Rufus」を2024年2月にリリースし、現在は日本でも利用可能になっている。Amazonでの買い物に限られるが、対話形式で相談できる点はChatGPTと同じである。 またAmazonは「Help me decide」という購入の意思決定を支援するAIもリリースしている。色々商品を見たが最後に選べないという時に、AIが「イチオシ」を選んだ上で、なぜその商品が最適なのか説明してくれる機能だ。「イチオシ」以外にも「安価な代替品」「アップグレード品」の選択肢まで提示し、最後の一押しをしてくれる。
3. 購買アシスタントを使った買い物スタイルの普及
テック大手による相次ぐ機能提供を背景に、米国ではAIチャットを購買アシスタントとして使うスタイルが急速に普及している。Deloitte社が2025年8-9月に米国で行った調査によると、調査対象者の33%がホリデー消費に生成AIを使うと回答し、Z世代(概ね1990年代半ばから2010年代初頭生まれ)に限れば43%に達した。 生成AI自体の普及が米国に比べ緩やかな日本では、まだその水準には及ばないだろう。しかし、国内でもChatGPTをはじめとする生成AI自体の普及が進む中、購買での活用は今後急速に広がるものと考えられる。
4. 拡大を支えるエージェントコマース基盤
AI購買の普及に不可欠なのは、安全で信頼のおける取引を支える基盤の構築である。OpenAIやGoogle等のテック大手だけでなく、小売りや決済の大手にスタートアップも加わり、エージェントコマース基盤が拡大している。
OpenAIの基盤となるのは、同社とオンライン決済サービスのStripeが共同開発したAgentic Commerce Protocol (ACP)だ。これはAIエージェントが企業のシステムと連携し、商品・注文・決済情報を安全に受け渡すためのオープンな仕組みである。利用するEC側の改修負担を減らすことで、ChatGPT経由の売上を確保したいEC事業者を引き込み、商品トラフィックと決済を集約する戦略だ。
また、ChatGPTのライバルGeminiを提供するGoogleも、AIエージェントによる購買を支援するGoogle Agent Payments Protocol (AP2)をMastercard、PayPal等60社超と創設し提供している。こちらは検索とGeminiで入口、決済インフラで出口を押さえる戦略と言える。
多くのスタートアップも、こうした土台に基づき製品・サービスの開発に取り組んでいる。領域は多岐にわたるが、例えば以下のようなものが登場している。
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エージェントオーケストレーション基盤:データ分析・価格チェック・注文などを担うエージェントのネットワークを連携・調整(例 Aaru、Shakudo)
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安心保証:AIエージェントとその取引を認証し、不正をリアルタイムで防止するソリューション(例 Visa Trusted Agent Protocol)
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データ分析:生成AIに取り上げられやすいコピーを分析し、ブランド向けコンテンツを自動生成する基盤(例 Profound、Writesonic)
このように、エージェントコマースのエコシステムが築かれ、テック企業以外のビジネス機会が広がっている。
5. AIに選ばれ、人に愛される、二つの関係性構築が鍵
テック企業および大手ECによる顧客接点獲得競争と、エージェントコマース基盤の発展。これらに支えられ、近い将来、購買プロセスにおけるAIの役割はますます拡大し、商品検索・比較・評価を担う「AIアシスタント」から、選択や交渉まで行う「AI顧客」へと進化するだろう。
売り手にとっては、顧客との間にAIが割って入るため、厳しい状況に見えるかもしれない。売り手からは顧客の顔が見えなくなり、また顧客も売り手やメーカーの名前すら知らずに商品を買う可能性が高まるからだ。しかし、条件は競合他社も同じである。来るべき将来に向け、早い段階から取り組むことが競争に勝つための鍵となる。
取り組みのポイントは、人とAI、双方との新たな関係づくりである。例えば今から次のようなことに取り組んではどうだろうか。
AIエージェントが台頭する未来において、企業の競争力は「いかに合理性を追求するAIに選ばれるか」と「いかに非合理な人間に愛されるか」の両方で決まる。この両方に対応する準備を始めたい。
- OpenAI発表資料「ChatGPT で購入する:Instant Checkout と Agentic Commerce Protocol」(2025年9月29日発表) https://openai.com/ja-JP/index/buy-it-in-chatgpt/ (2025年12月22日閲覧)
- Amazon発表資料「Amazonの生成AIを搭載した対話型ショッピングアシスタント Rufus(ルーファス)、日本のすべてのお客様が利用可能に」(2025年9月2日発表) https://www.aboutamazon.jp/news/retail/amazon-ai-shopping-assistant-rufus (2025年12月22日閲覧)
- Deloitte“2025 Deloitte Holiday Retail Survey” (2025年10月発表) https://www.deloitte.com/us/en/insights/industry/retail-distribution/holiday-retail-sales-consumer-survey.html (2025年12月22日閲覧)
- Google発表資料「新しい Agent Payments Protocol(AP2)で AI コマースを強化」(2025年9月24日発表) https://cloud.google.com/blog/ja/products/ai-machine-learning/announcing-agents-to-payments-ap2-protocol (2025年12月22日閲覧)
- Aaruホームページ https://aaru.com/ (2025年12月23日閲覧)
- Shakudoホームページ https://www.shakudo.io/ (2025年12月23日閲覧)
- VISA Trusted Agent Protocol紹介ページ https://developer.visa.com/capabilities/trusted-agent-protocol/overview (2025年12月23日閲覧)
- Profound ホームページ https://www.tryprofound.com/ (2025年12月23日閲覧)
- Writesonic ホームページ https://writesonic.com/ (2025年12月23日閲覧)