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第11回:次の産業革命はAIファクトリーから始まる -AIを「産業OS」に進化させよ-
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2026.2.2
本田 えり子、比屋根 一雄

要約

  • AIブームの本質は国家主権をかけた「AIファクトリー」という名のインフラ開発競争

  • 巨額投資を回収する唯一の道は、AIを単なるツールから産業OSに進化させること

  • 産業OSにより、あらゆる産業の競争軸と構造は激変する

  • 勝ち残るためには業務の実行者から産業の設計者に転身する必要がある

今、目の前で起きているAIブームを「単なるバブル、自分とは関係ないこと」として片付けていないだろうか。AIブームの裏側では、あらゆる産業に影響を与える変化が確実に進行している。それは、AIがChatGPTなどの単なる便利なチャットツールから、現実世界の産業を動かすOS(オペレーティング・システム)へと進化しようとしているということだ。
確かに、AI投資は過熱気味と言わざるを得ない。主要AI関連企業5社の2025年のAIインフラ投資額は4000億ドル(約60兆円、1ドル=150円換算、以降も同様)に達し、2027年まで急増すると予測されている。また、OpenAIのサム・アルトマン氏が、今後数年のデータセンター投資を巡って約1.4兆ドル規模(約210兆円)の「コミットメント」に言及したことも報じられている。ちなみに日本の2025年の国家予算が約115兆円である。これと比較すると、いかに膨大な投資かということがわかる。

【図 主要AI関連企業5社のAIインフラ投資】

出所:Bloombergの報道を基に三菱総合研究所が作成

しかし、本コラムでは、足元の電力・GPU争奪戦や株価の乱高下といったブームに目を向けるのではなく、10年先を見据えた産業の激変について考察する。なぜ世界は巨額のAIインフラ投資を行うのか、その先にある産業OSとは何か。そして、我々ビジネスパーソンはその変化にどう備えるべきか考える。

1. 計算能力を製造する新たな工場「AIファクトリー」に集まる投資

産業変化を理解する上で、まずは足元のAI投資が何に向かっているのか、それには誰のどういう意図があるのかを整理したい。現状、AI投資はAIファクトリーの建設に向かっている。AIファクトリーとは、データセンターの再定義として語られ始めている概念である。これまでのデータセンターは、人間が生み出したデータを保存・処理する倉庫のような役割だった。しかし、AIファクトリーでは、電力を動力にGPUをエンジンとし、AIモデルの開発・推論を支える計算能力を製造する。
このAIファクトリー構築を巡り、世界では3つのアプローチがある。第一は、GoogleなどAI企業による「垂直統合」だ。自社で発電所まで確保し、データセンター、GPU、そしてその上で動くAIモデルまでを全て統合しようとしている。例えば、Googleの親会社のAlphabetは、データセンター向け発電所開発のIntersect Powerを47億5000万ドル(約7450億円)で買収すると2025年12月に発表した。第二は、AIファクトリーの「標準設計図(blue print)」を握ろうとするNVIDIAのアプローチである。GPUというハードウエアを提供するだけでなく、世界のAIファクトリーづくりの標準化により支配を狙っている。第三に、「企業別アプローチ」によりオンプレミス環境に必要なAIインフラを持ち込む動きである。例えば、AmazonはAWS AI Factoryで顧客のオンプレミス環境にAIファクトリーを提供している
これら巨額投資の背景にあるのは、AIファクトリーという名のAIインフラを制する者が、次世代の産業競争力を制する、という確信だ。鉄道、電気、インターネット網が整備された産業革命の歴史が証明するように、物理的なインフラを握った国や企業が、産業革命後の果実を手にしてきた。今回のAIインフラ投資は、数十年単位で行われた産業革命のインフラ構築を、わずか5年という短期間で圧縮して行おうとしているのである。

【図 インフラ整備に要した投資と期間】

出所:各種資料から三菱総合研究所が作成、金額は現在価値に換算後

そしてこれは、国家の主権をかけた動きだ。米国はOpenAI「Stargate」を代表例に、10GW規模を目指しテキサス、バージニア、イリノイ、オハイオなどに巨大なAIファクトリーを集積させている。これに対抗してEUは「AI Continent」を掲げ、AIファクトリーのネットワークを19拠点へ拡張したと発表している。そして中国である。米国の厳しい半導体輸出規制を受けながらも、「東数西算(東部で発生する膨大なデータを資源が豊富な西部で処理・保存)」プロジェクトを推進し、国産GPUによる国内AIエコシステムの構築に国を挙げて取り組んでいる

2. 投資回収の唯一の道は「産業OS」

AIファクトリー投資には大きなリスクがある。それは投資回収までのタイムリミットまでにユーザー企業の実需が立ち上がらず、投資したAI企業の収益化が遅れることだ。サーバー等の耐用年数は4〜6年程度と言われており、投資回収には時間的制約が付く。チャットツールと会話を楽しんだり、メールの下書きをさせたりする程度の用途では、前述の巨額投資に見合うリターンは得られない。
巨額投資を回収する唯一の道は、AIを実業の現場に実装し、現実世界の産業そのものを動かすインフラにすることだ。これが産業OSの概念である。より具体的に言えば、産業OSとはAIファクトリー(大規模計算・データ・モデル運用)を中核に、データ連携やガバナンスを統合して、企業の業務プロセスをAIで実行・改善する産業共通基盤である。
新たな産業OSが普及した世界では、人とAIの関係が逆転する。これまでの産業は、人間が中心にいて、ソフトウェアを道具として使っていた。しかし新たな世界では、ソフトウェア、すなわちAIが中心となって産業プロセスを動かし、人間はその監督や例外処理、あるいはAIにはできない高度な判断を行うようになる。この産業OSの萌芽は、既に様々な領域で生まれ、効果を出し始めている。

3. 「産業OS」の萌芽、生産性向上からビジネスモデル変革の実例

単なる業務効率化に留まらず、その産業のビジネスモデル変革につながると思われる兆候も見られる。いくつか具体的な事例を紹介する。これらの事例では、いずれもAIをツールとして使うのではなく、AIが一定の業務プロセスを完結するよう業務の再設計とデータ整備を行っている。

  1. (1)カスタマーサポートや法務:専門サービスの自動化とROIの飛躍的向上最も分かりやすいのはカスタマーサポートや法務の領域だ。カスタマーサポートプラットフォームのZendeskの事例では、調査会社Forresterの調べによると、AIによる自己解決率が30%に達し、ROI(投資対効果)は推計でプラス310%にもなると試算されている。また、米国で急成長する法務AIのHarveyは一人当たりの業務削減時間が月当たり20時間とレポートされており、それをベースとする当社の想定では260〜500%という驚異的なROIを叩き出している。 これらは、「人がやっていた作業をAIが代行する」という段階を超え、「AIが一次対応を完結させ、人間は最終確認のみを行う」というプロセスへの移行を示唆している。
  2. (2)会計:月次決算からリアルタイム経営へのシフト会計分野ではRilletのようなAI会計ソフトが登場している。従来のERPでは、データの連携や手作業による修正に時間がかかり、月次決算を締めるのに数日を要していた。しかし、AI会計はほぼ自動で起票を行い、人間は例外処理のみを判断する。これにより、決算は月次から日次、さらにはリアルタイムへと変わる。CFOの役割は「過去の数字を報告する」ことから、「今の数字を見て即座に意思決定する」ことへと質的に変化する。意思決定の遅れによる粗利悪化や解約率アップなどのコストを削ぎ落とすことが、企業の競争力に直結する。
  3. (3)企業買収:M&A戦略(ロールアップ)による業界再編さらに大きな効果を生むと考えられるのが、AIを活用したM&A戦略(ロールアップ)だ。米国の会計事務所Crete Professionals Allianceの事例が象徴的である。彼らは買収した会計事務所にOpenAIベースの業務プラットフォームを導入し、監査メモやデータ統合を徹底的に自動化し、生産性を劇的に向上させている。これにより、従来は人数を増やさなければ成長できなかった労働集約型のビジネスを、ソフトウェアのようなスケーラブルなモデルに変化させた。報道によれば同社は買収を加速するための投資計画を示しており、ロールアップの継続意思を明確にしている。今後日本でも、会計事務所だけでなくコンサルティングやBPOなど、あらゆる人月商売の業界で、AI武装したプレイヤーによる既存企業の買収・統合が加速すると考えられる。

4. 「産業OS」実装後のホワイトカラー業務

こうした動きが様々な産業で実現した時、企業のホワイトカラー業務(調査、資料作成、調整、定型的判断)の多くは、実用レベルでAIに代替される。ITや金融といった情報産業だけではなく、製造、建設、物流、エネルギーといった現場産業においても、そのバックオフィス機能や顧客接点はAIによって運営されるようになるだろう。例えば、問い合わせ対応から提案、見積、契約、更新、そして解約抑止に至るまで、顧客接点の多くがAIによって常時稼働・即時対応化される。これまで人手による手厚い対応が付加価値だった業務は、AIによる限界費用ゼロのサービスへとコモディティ化する。
Salesforceなどが進めるインダストリー・クラウドは、まさにこの未来に向けた布石だ。各企業が個別にDXを頑張る時代は終わり、業界共通の「業務の型」がAI部品として提供され、それを組み合わせるだけでビジネスプロセスが出来上がる。そんな世界が到来するだろう。さらに、2030年以降に普及が予想されるフィジカルAIを搭載したロボティクス・自動運転・知能機械が実用化されると、それらも産業OSに組み込まれ、ブルーカラー業務も含め全産業に劇的な変革が広がる。

5. 日本企業の現在地と今すぐ取り組むべき事

翻って、日本の状況はどうだろうか。世界がAIファクトリーの建設と産業OSの実装に邁進する中、残念ながら日本企業の多くはまだAI導入の準備に手こずっている。トップ企業ですら、レガシーシステムの呪縛やデータの未整備により、AIの実需を創造できていないのが実情だ。しかし、周回遅れだからこそ他国の試行錯誤から学び、素早く産業OSにアプローチできる可能性もある。
来るべき産業革命において、我々が目指すべき勝ち筋は「業務の実行者」から「産業の設計者」への転身にある。これまで、ビジネスパーソンの価値は、複雑な業務を正確に早く遂行することにあった。しかし、産業OSが普及した世界では、業務を遂行するのはソフトウェアである。そこで人に求められるのは以下の3点に集約されていくだろう。

  1. (1)業務の型を設計する力自社の業務フローを、人ではなくAIが回しやすい形に再設計する能力だ。例外を極小化し、データを標準化し、ソフトウェアが自律的に動ける環境を整えるビジネス・アーキテクトとしての役割である。
  2. (2)例外と責任を司る力AIが処理できない例外や倫理的判断が必要な場面で、最終的な責任を持って決断する能力だ。これは単なる管理職ではなく、高度な専門性と人間性が問われる領域である。
  3. (3)新たな問いを立てる力AIは解くことは得意だが、問いを立てることは苦手だ。「どの市場に参入するか」「どんな顧客体験を作るか」「そもそも何のために事業を行うか」。こうした問いを設定し、産業OSを使ってそれを実現する構想力が問われる。
【図 産業OSを使いこなす人に求められる力】

まとめると、備えになるのは自社の業務を「ソフトウェアが動かす前提」で分解し直し、例外と責任の境界を引き直した上で、AIを中心に人の役割を定義し試すことを、今日から始めることである。ちなみに当社は、シンクタンク・コンサルティング業はいずれ新たな産業OSにディスラプトされると予想し、2020年より調査・分析業務のAIエージェント化(ソフトウェア化)に取り組んできた。最近では当社の調査・分析ノウハウを組み込んだAIエージェントによる「インテリジェンス基盤」の提供を始めた。これはAIを使って効率化するという話に留まらず、業務プロセスそのものをソフトウェアとして再設計し、再現可能な形で提供する試みである
AIインフラ投資がもたらす産業革命は、もはや「起きるかどうか」ではなく「いつ、どの程度の規模で起きるか」というフェーズに入っている。あなたの働く産業、あなたの会社も、産業OSによる書き換えの影響を少なからず受けるだろう。競合他社がAIで武装し、圧倒的なコスト構造とスピードで攻め込んでくるかもしれない。あるいは、異業種から産業OSを持って参入してくるプレイヤーに市場を奪われるかもしれない。
ぜひ、「今の業務をすべてソフトウェアが動かすとしたら?」と前向きな発想で思考と実証を始めていただきたい。その試行錯誤の先にこそ、産業革命後の時代を生き抜くヒントがあるはずである。

  1. OpenAIサム・アルトマン氏のデータセンター投資への「コミットメント」
    https://techcrunch.com/2025/11/06/sam-altman-says-openai-has-20b-arr-and-about-1-4-trillion-in-data-center-commitments/ (2026年1月19日閲覧)
  2. NVIDIAブログ:AIファクトリーの紹介
    https://blogs.nvidia.com/blog/ai-factory/ (2026年1月19日閲覧)
  3. Alphabetの発電所開発企業Intersect買収の発表
    https://abc.xyz/investor/news/news-details/2025/Alphabet-Announces-Agreement-to-Acquire-Intersect-to-Advance-U-S--Energy-Innovation-2025-DVIuVDM9wW/default.aspx (2026年1月19日閲覧)
  4. NVIDIAブログ:AIファクトリーの“blue print”
    https://blogs.nvidia.com/blog/omniverse-blueprint-ai-factory/ (2026年1月19日閲覧)
  5. AWS AI Factoryの紹介
    https://aws.amazon.com/jp/about-aws/whats-new/2025/12/aws-ai-factories/ (2026年1月19日閲覧)
  6. EUのAIファクトリーに関する発表
    https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/news/eu-expands-network-ai-factories-strengthening-its-ai-continent-ambition (2026年1月19日閲覧)
  7. 中国政府の東数西算に関する発表
    http://english.www.gov.cn/news/202312/27/content_WS658b72afc6d0868f4e8e28ba.html (2026年1月19日閲覧)
  8. Forrester 調査結果
    https://tei.forrester.com/go/zendesk/service/?lang=en-us (2026年1月19日閲覧)
  9. RSGI調査結果
    https://www.harvey.ai/resources/reports/harvey-rsgi-report?utm_source=rsgi&utm_medium=pr&utm_campaign=rsgi_report (2026年1月19日閲覧)
  10. Rilletホームページ
    https://www.rillet.com/ (2026年1月19日閲覧)
  11. Crete Professionals Allianceホームページ
    https://www.cretepa.com/ (2026年1月19日閲覧)
  12. Crete Professionals Allianceに関する記事
    https://www.reuters.com/business/thrive-backed-accounting-firm-crete-spend-500-million-ai-roll-up-2025-06-04/ (2026年1月19日閲覧)
  13. Salesforceによる「Industries AI」の紹介
    https://www.salesforce.com/news/stories/industries-ai-announcement/ (2026年1月19日閲覧)
  14. 三菱総合研究所のAIエージェントを活用した「インテリジェンス基盤」の紹介
    https://www.mri.co.jp/news/press/20250305.html (2026年1月19日閲覧)

筆者

筆者 BA・AI事業部門 事業ディレクター(BA・AI担当) 本田 えり子
本田 えり子
株式会社三菱総合研究所
BA・AI事業部門 事業ディレクター(BA・AI担当)

マーケティングを中心として、幅広い業種・分野でのAI・データ活用コンサルティングを行っています。技術やデータを使うことが目的化しがちですが、企業の生産性や生活者への提供価値を高めるためにどう技術を使えばよいのか、常に意識しながらプロジェクトを進めています。

筆者 研究理事 比屋根 一雄
比屋根 一雄
株式会社三菱総合研究所
研究理事

IT歴50年、AI歴30年。オープンソース活動家の顔もありました。今は研究理事として、企業のAI活用支援やAIソリューション開発を担っています。AIの行く末に、一抹の不安を覚えつつ、大きな期待をかけています。

※部署/役職は公開時点のものであり、現在と異なる場合があります。

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