生成AIコラム

第5部 生成AIが導く産業の未来

第5部|第2回:モビリティ(物流、交通、旅行・観光)業界と生成AI
2024.6.28
飯田 正仁

三菱総合研究所は生成AI時代の始まりに向け「生成AIラボ」を新設する。それを記念して「三菱総研 生成AIコラム」の連載をお届けする。

※「三菱総研 生成AIコラムシリーズ」はこちら。

はじめに

第1部~第4部で紹介したように、生成AIの導入はビジネスの場で大きな変革をもたらす技術と期待されている。実際に、様々な産業界で生成AIの活用が進みつつある。
第5部では、各産業での課題や生成AIの活用事例、今後生成AIが普及していくためのポイントについて紹介する。
本コラムでは、モビリティ(物流、交通、旅行・観光)業界について紹介する。

モビリティ(物流、交通、旅行・観光)業界の社内業務効率化への生成AIの活用

モビリティ業界の背景

モビリティ(物流、交通、旅行・観光)業界は、生成AIの活用が進んでいる業界の一つである。前回コラムの金融(銀行・保険・証券)業界とは異なり、モビリティ(物流、交通、旅行・観光)業界は、実体のある人や商品を輸送するサービスという特徴を有している。安全性を確保しつつ、現場の状況を迅速に把握して必要な輸送手段を手配する必要があり、個別のニーズや問い合わせへの対応も多い。大規模な調整力と柔軟性が求められることや労働環境の厳しさなどの要因もあり、業界は慢性的な人手不足である。また、世界情勢に伴うサプライチェーンの不安定さ、環境問題に対する意識の高まりもあり、輸送時の燃料費も高騰している。コロナ禍を経て、オンライン化の進展も顕著である。
上記の業界共通の背景に加え、個々の業界に関してもさまざまな背景があり、各業界は大きな変革期を迎えている。物流業界ではEC市場の拡大や環境意識の高まり、トラックドライバーの時間外労働時間制限などによる「2024年問題」が社会的にもクローズアップされている。同様に、交通業界では人口減少・少子高齢化や自然災害の増加、旅行・観光業界では訪日外国人の増加やコロナ過からの回復などが業界に大きな影響を与えている。

モビリティ業界共通の課題

モビリティ業界では、これらの背景に対応するため、社内情報の収集・共有やリアルタイムでの現場の状況把握、顧客からの問い合わせ対応などを効率的に進める必要がある。オンライン化の進展に伴うDX化への対応も求められている。既に、社外業務効率化への生成AI活用が各企業で進められている。

モビリティ業界の社内業務効率化への生成AI活用

物流業界のNIPPON EXPRESSホールディングス、日本通運、NXキャッシュ・ロジスティクスは、Azure OpenAI Serviceを通じてChatGPTを導入し、社内業務の効率化やサービス開発の強化に活用している。文書作成やデータ分析の効率化によって、従業員の負担が軽減される。また、新たなサービスのアイデア創出や顧客対応の迅速化も可能となる。
交通業界のJR西日本カスタマーリレーションズ社とELYZAは、共同でコンタクトセンターに生成AIを導入し、通話内容やメールでの問い合わせ内容の要約に活用している。オペレーターの業務負担が軽減され、より迅速で正確な対応が可能となる。さらに、AIが生成した要約を基にした迅速なフィードバックだけでなく、過去の問い合わせデータを活用したトレーニングなどへの応用も考えられる。鉄道会社では、遺失物管理や保守作業にも生成AIを活用しており、落とし物の写真を撮影すると生成AIが特徴を自動入力するシステムなどが導入されている。遺失物の管理が効率化され、保守作業の精度向上が期待できる。
旅行・観光業界のTradFit社は、ChatGPTとLINEを活用し、宿泊者向けの自動応答や業務管理効率化のサービス「TradFitAI」を展開している。このサービスにより、宿泊施設の従業員は定型的な業務から解放され、より付加価値の高い業務に集中できるようになる。また、個々の宿泊者のニーズに応じたカスタマイズ対応も可能で、チェックイン・チェックアウトの手続きや周辺観光情報の提供など宿泊者の利便性向上にも寄与している。
各業界における生成AIの活用は、単なる社内業務効率化を超え、サービスの高度化や新しいビジネスへと進化している。技術の進歩に伴って、ビジネスプロセスだけでなく顧客との関わり方も大きく改善されており、企業の競争力を高める効果がある。以降では、各業界での生成AI活用の広がりを見てみよう。
【図:モビリティ(物流、交通、旅行・観光)業界での生成AI活用状況】
図:モビリティ(物流、交通、旅行・観光)業界での生成AI活用状況 出所:三菱総合研究所作成

物流業界の生成AI活用

物流業界の課題

物流業界は、経済活動基盤としての重要な機能を有している。冒頭に挙げたEC市場拡大、環境意識の高まり、2024年問題などの背景もあり、近年では、小口輸送増加と積載率低下、輸送コスト増、労働力不足といった課題を抱えている。課題に対応するため、生成AIを活用したサービス高度化や新しいビジネスモデルが登場している。

こちらは限定コラムです。

資料請求から続きをお読みいただけます。

資料請求はこちら

▼このコラムでわかること

物流・交通・旅行・観光業界の課題と生成AIの活用事例

RaaS(Robotics as a Service)とは?具体的な活用事例を解説

生成AIを用いた新しいビジネスモデル・事例をご紹介

<目次>
■はじめに
■モビリティ(物流、交通、旅行・観光)業界の社内業務効率化への生成AIの活用
 ・モビリティ業界の背景
 ・モビリティ業界共通の課題
 ・モビリティ業界の社内業務効率化への生成AI活用

(限定ページ)

■物流業界の生成AI活用
 ・物流業界の課題
 ・物流業界のサービス高度化への生成AI活用
 ・物流業界の新しいビジネスモデルへの生成AI活用
■交通業界の生成AI活用
 ・交通業界の課題
 ・交通業界のサービス高度化への生成AI活用
 ・交通業界の新しいビジネスモデルへの生成AI活用
■旅行・観光業界の生成AI活用
 ・旅行・観光業界の課題
 ・旅行・観光業界のサービス高度化への生成AI活用
 ・旅行・観光業界の新しいビジネスモデルへの生成AI活用
■モビリティ(物流、交通、旅行・観光)業界で生成AI活用が進むためのポイント
  1. NIPPON EXPRESSホールディングス ニュースリリース 2023年9月13日
    NIPPON EXPRESSホールディングス、グループ内向け生成AIサービスを導入(2024年5月7日閲覧)
    https://www.nipponexpress-holdings.com/ja/press/2023/20230913-1.html
  2. JR西日本 ニュースリリース 2023年9月21日 JR西日本カスタマーリレーションズとLLM DXパートナー ELYZA、通話内容要約業務に言語生成AIを導入(JR西日本カスタマーリレーションズ)(2024年5月7日閲覧)
    https://www.westjr.co.jp/press/article/2023/09/page_23439.html
  3. トラベルボイス ニュース 2023年04月17日 宿泊施設向けAIスピーカーTradFit社、「チャットGPT」活用の宿泊客応答サービスを開始、言語を自動判定し多言語で(2024年5月7日閲覧)
    https://www.travelvoice.jp/20230417-153332

筆者

筆者 飯田 正仁 株式会社三菱総合研究所 デジタルイノベーション部門 生成AIラボ
飯田 正仁
株式会社三菱総合研究所
デジタルイノベーション部門 生成AIラボ

学生時代はOR・数理工学を専攻、現在はAI・XR・量子など新しい技術の最新動向や社会に与える影響を調査研究しています。身近なところに最新技術のある子供たちが、将来どんなふうに成長していくのか、とても楽しみです。

DXメルマガ
配信中