生成AIコラム

第5部 生成AIが導く産業の未来

第5部|第3回:製造業と生成AI
2024.9.5
飯田 正仁

三菱総合研究所は生成AI時代の始まりに向け「生成AIラボ」を新設する。それを記念して「三菱総研 生成AIコラム」の連載をお届けする。

※「三菱総研 生成AIコラムシリーズ」はこちら。

はじめに

第1部~第4部で紹介したように、生成AIの導入はビジネスの場で大きな変革をもたらす技術と期待されている。実際に、様々な産業界で生成AIの活用が進みつつある。
第5部では、各産業での課題や生成AIの活用事例、今後生成AIが普及していくためのポイントについて紹介する。
本コラムでは、製造業について紹介する。

背景と課題

製造業は現在、複数の深刻な課題に直面している。
まず挙げられるのは、少子高齢化・人口減少を背景とした深刻な労働力不足である。特に、熟練労働者のスキルや技術を、次世代に効率的に伝えることが難しくなっている。製造プロセスの質を低下させる可能性があり、スキル・技能共有の仕組みが求められている。
次に、製造業は多段階のプロセスからなることを背景とした、情報共有や資源管理の連携強化という課題である。製造業は、企画、設計、試作、計画、調達、生産、物流、販売、保守、運用など多くのプロセスで様々なシステムやツール類を使用したり、必要な資源を管理したりする必要があり、プロセス間の連携強化が求められている。
さらに、グローバル競争の激化を背景とした、アイデア創出、新商品開発という課題である。各国の企業が技術革新とコスト競争力を武器に市場でのシェア拡大を目指す中で、日本の製造業も迅速かつ効果的に対応することが求められている。特に、革新的な製品やサービスの開発を通じて、他社との差別化を図る必要がある。
製造業における生成AIの活用は、これらの課題に対応し、業界の産業競争力を維持・向上させるための鍵となる。

製造業の社内業務効率化への生成AIの活用

他の業界と同様、製造業でも、社内情報共有をはじめとした社内業務効率化から生成AI活用が進められた。
全社的に生成AIが導入された先駆的な事例として、パナソニックホールディングスの事例がある。
パナソニックホールディングスは、傘下のパナソニックコネクトが活用していたAIアシスタントサービス「Connect GPT」をベースに、パナソニックグループの国内全社員約9万人が利用できる環境「PX-GPT」を整備した。業務効率化にとどまらず、グループ横断のDX「Panasonic Transformation(PX)」推進も試行した取り組みである。
グループ横断での導入のきっかけとなったパナソニックコネクトでは、2023年6月~2024年5月の1年間で、全社員18.6万時間の労働時間(1回あたり平均約20分)が削減されたとの報告がある。パナソニックコネクト社での生成AI活用が進んだ要因は幾つか考えられるが、一般社員が利用しやすい方針を設けたことが大きい。失敗は許容してスピード重視、安全・簡単に使える環境の提供など、生成AIを使ったことの無い社員が第一歩を踏み出すには、会社の方針が明確に示されていることは安心感がある。使うことで成功・失敗のノウハウが蓄積し、社内で共有されて利便性が高まるという好循環が生まれる。
また、生成AI導入時の課題として、いわゆる「プロンプトエンジニアリング」の煩雑さが挙げられることが多いが、同社はこの課題にも対応している。よくある日常業務のプロンプトサンプルをトップ画面に用意する、より正確な回答が得られるようAIがユーザーの入力したプロンプトを添削する、などである。生成AIの導入時だけでなく、利用に伴う課題に積極的に対応して工夫を怠らない姿勢は、継続的な普及促進に欠かせないものである。
パナソニックコネクトでは今後、AIがエージェント型に進化すると見越して、自律的な企業形態「オートノマスエンタープライズ」を目指すとしている。エージェントAIは、生成AIの次のブレイクスルーとして注目されている技術である。生成AI導入時に発揮された同社の進取の精神で、エージェントAIを活用した業務革新にも注目したい。
三菱電機グループでも、社内業務効率化に向けた積極的な利用が進められている。IT基盤サービス「MELGIT(Mitsubishi ELectric Global ITplatform service)」上で利用できる「MELGIT-GAI」をリリースし、グループの国内全社員約12万人が利用可能な環境を整備した。情報収集・整理、議事録作成など、日常業務の業務効率改善が期待されている
また、同社のAI 技術ブランド「Maisart」に生成AIを組み合わせた様々なサービスも検討されている。Maisartは、監視カメラやFA機器などエッジ側の機器への搭載に有用な少ない演算量の実装に特長がある。エッジ技術やIoTは、製造業での活用シーンが非常に多い。生成AIと組み合わせることで、機器から得た情報を生成AIが学習して、ユーザーの問い合わせに対応したり操作をサポートしたりといった活用が増えると考えられる。

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▼このコラムでわかること

製造業の競争力を維持・向上させるための鍵とは?

(事例)生成AIを活用した、社内業務効率化

生成AIによる製造プロセス高度化の具体例

<目次>
■はじめに
■製造業の課題と背景
■製造業の社内業務効率化への生成AI活用

(限定ページ)

■生成AIを用いた製造プロセス高度化
 ・熟練者の技能伝承
 ・自然言語指示・教示
 ・企画・設計での活用
 ・ERPでの活用
 ・その他の各プロセスの高度化
■生成AIを活用した新ビジネス
 ・消費者のニーズ・アイデアの事業化
 ・新規用途探索
  1. パナソニック ホールディングス株式会社 プレスリリース 2023年4月14日 
    AIアシスタントサービス「PX-GPT」をパナソニックグループ全社員へ拡大
    国内約9万人が本格利用開始
    https://news.panasonic.com/jp/press/jn230414-1(閲覧日2024.7.29)
  2. パナソニック ホールディングス株式会社 プレスリリース 2024年6月25日
    パナソニック コネクト 生成AI導入1年の実績と今後の活用構想
    ~1年で労働時間を18.6万時間削減~ 
    https://news.panasonic.com/jp/press/jn240625-1(閲覧日2024.7.26)
  3. Lei Wang, Chen Ma, Xueyang Feng, Zeyu Zhang, Hao Yang, Jingsen Zhang, Zhiyuan Chen, Jiakai Tang, Xu Chen, Yankai Lin, Wayne Xin Zhao, Zhewei Wei, & Ji-Rong Wen. (2024). A Survey on Large Language Model based Autonomous Agents.
    https://arxiv.org/abs/2308.11432v3(閲覧日2024.7.26)
  4. 三菱電機 2023年12月 EXPERT INTERVIEW 生成AIの活用で新しい発想の製品やサービスが生まれる可能性が高まる
    https://www.mitsubishielectric.co.jp/it/it-topics/column16/expertinterview/(閲覧日2024.7.29)

筆者

筆者 飯田 正仁 株式会社三菱総合研究所 デジタルイノベーション部門 生成AIラボ
飯田 正仁
株式会社三菱総合研究所
デジタルイノベーション部門 生成AIラボ

学生時代はOR・数理工学を専攻、現在はAI・XR・量子など新しい技術の最新動向や社会に与える影響を調査研究しています。身近なところに最新技術のある子供たちが、将来どんなふうに成長していくのか、とても楽しみです。

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