インテリジェンス基盤

事業環境変化への適応力向上

<第2回> 組織のインテリジェンス機能におけるAI技術の活用

2025.6.5
髙萩 昭範

近年、目まぐるしい環境変化に対応し成長することが企業に求められる中、外部情報を迅速に収集し、意思決定に生かすインテリジェンス機能の重要性が増しています。当社の支援事例を踏まえ、インテリジェンス業務を推進する際のポイントを、連載コラム「インテリジェンス基盤」としてお伝えします。

■連載コラムでわかること(予定)

  • 第1回:事業環境変化への適応に向けたインテリジェンス機能の組織への実装
  • 第2回:AIにより高度化するインテリジェンス機能
  • 第3回~:企業の課題解決に向けたインテリジェンス機能の活用

※各記事のテーマは変更となる可能性がございます。あらかじめご了承ください。

第1回「事業環境変化への適応に向けたインテリジェンス機能の組織への実装」では、環境変化への対応が重要になっている背景やインテリジェンス機能の概要を説明しました。本記事(第2回)では、AIの進化に着目し、情報収集・分析の迅速性やインパクト予測の精度等、インテリジェンス機能の中で大きく高度化したポイントをお伝えします。次回(第3回)以降は、当社の支援事例を踏まえて、企業の課題解決の中でインテリジェンス機能がどのように活用されているのかをご紹介します。

組織が陥りやすい「インテリジェンス機能」の落とし穴

近年、多くの企業がかつて経験したことのないほど激しい経営環境の変化に直面しています。「市場が急変した際、情報収集が後手に回り、意思決定が遅れてしまった」「想定外のリスクに気づくのが遅れ、競合に先を越された」――このような経験をされたことはありませんか?
特にグローバル市場で競争する大企業にとって、経営環境の変化を素早くキャッチし、適切な意思決定につなげるインテリジェンス機能(情報収集・分析・評価)は、もはや経営戦略上の生命線とも言えます。しかし、多くの企業では実際のインテリジェンス機能の運用にあたり、次の4つの課題を抱えています。
課題①:
経営層と現場の情報ギャップ
多くの企業では、経営者が必要とする情報と、現場の企画担当者が実際に収集・分析する情報の間に大きなギャップがあります。
経営層から指示があって初めて情報収集を開始するため、結果的に環境変化への対応が後手後手に回ってしまいます。
課題②:
情報の質の課題
限られた担当者で多岐にわたる情報源を網羅することは難しく、情報の質や量が不安定になりがちです。
特に海外拠点や複数事業部門への問い合わせには時間を要し、収集・分析から対策検討までのスピードがどうしても落ちてしまいます。
課題③:
部署間の調整による効率性の低下
情報分析や意思決定が複数部署にまたがる場合、調整コストが発生します。
部署ごとに分析方法や情報の粒度が異なるため、意思決定の際に再度調整を余儀なくされ、その都度貴重な時間が失われていきます。
課題④:
中長期視点の欠如
多くの企業が日々のリスク対応に追われるあまり、短期的な視点だけで情報分析を行っています。長期的な環境変化を見落としてしまうことで、将来的に大きな影響を与える重要な兆候を逃してしまう可能性があります。
こうした課題が積み重なると、せっかく整備したインテリジェンス機能も形骸化し、経営のスピードや的確性を損なう結果になりかねません。

AIエージェントを活用したインテリジェンス基盤

では、どうすれば「インテリジェンスが機能する」ようになるのでしょうか?そこで今、注目されているのがAIエージェント技術の活用です。AIエージェント技術を活用すれば、世界中の情報をリアルタイムで収集し、国際情勢の変化を迅速にモニタリング・評価・レポートをすることが可能になります。例えば、ある地域で政治的緊張が高まった場合、AIは即座にそれを検知し、具体的にどのような影響が自社に及ぶかを分析・評価し、わかりやすく提示することができるようになります。
【図表:AIエージェントを活用したインテリジェンス基盤のイメージ】
出所:株式会社 三菱総合研究所

AI活用でインテリジェンス機能はこう変わる

AIエージェント技術を活用することのメリットには以下のようなものが挙げられます。

経営層が求める情報収集スピードと精度の実現

AIは世界中のニュースや公的機関のレポートなどをリアルタイムで横断的に情報収集し、経営層が求める切り口で自動整理します。これにより 現場のアクションを待たずに経営層に重要情報の要点と分析結果が届く流れが整い、経営層と現場の情報に対する時間差のギャップを最小化することができます。また、限られた担当者でも網羅的で質の高い情報収集および分析結果を提供することが可能になります。

環境変化の早期検知とアラート

常時AIが横断的にモニタリングすることで、マクロ環境変化の “兆しレベル” を即座に検出し、経営層および関係者にアラートを出すことができます。これにより、「指示を待ってから調査」ではなく「変化の兆候が見えた瞬間に意思決定材料が届く」 仕組みが、経営による対応の後手化を防ぐことができます。

部門横断プラットフォームで調整コストを削減

AIが生成するダッシュボードを共通プラットフォームとして展開すれば、各部署は同じ定義・同じ粒度の指標を参照ことが可能になります。追加資料の付け合わせやフォーマット調整といった“翻訳作業”が不要 になり、共通認識と意思決定のスピードが向上します。

中長期視点でのインサイト

AIは幅広い政策・技術・社会動向のニュースや公開資料を常時収集し、変化の方向性と重要度を定性的に評価。短期対応で手一杯の現場に代わり、中長期の環境シグナルを経営層へ整理提示します。これにより将来の機会・リスクを早期に認識でき、計画の見直しや資源配分を適時に行う土台が整い、中長期視点の不足を解消します。
このようにAI技術を活用することで、外部環境の変化や事業インパクトを迅速かつ具体的に捉えられる体制が整い、中期経営計画などを随時更新し、変化に即応した柔軟な計画の見直しが可能になります。
さらにAIならでは網羅性と俯瞰的視点も期待できます。企業内の慣習や固定観念に縛られず、膨大な情報を因果関係で結び付けるAIの分析は、「見えていなかったマクロ環境変化と経営インパクト要因の繋がり」や「隠れたリスク/機会」を浮き彫りにし、経営の視野を広げるとともに意思決定の高度化が期待できます。
上記の通り、AIにより高度化するインテリジェンス機能ですが、あくまで戦略実行や業務推進のための手段であり、経営・事業戦略や組織・業務設計と整合させることが重要です。
三菱総合研究所では、シンクタンクの知見を生かしたインテリジェンス業務支援と、経営・DXに関する戦略立案・実行、業務支援(コンサルティングサービス)を合わせて行ってきました。次回(第3回)は、これまでの支援プロジェクトで蓄積したノウハウを踏まえて、企業の課題解決の中でインテリジェンス機能がどのように活用されるのかを詳しくご説明します。
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筆者

髙萩 昭範
株式会社三菱総合研究所
ビジネス&データ・アナリティクス本部 特命部長

外資系コンサルティング会社およびテック系スタートアップ経営者を経て、三菱総合研究所に入社。
顧客企業に対し、AI技術を活用したインテリジェンス基盤の導入を支援しています。
特に、全社的な経営課題の解決や事業成長に向けたAI活用、および新規事業の創出・グロースを強みとしています。