インテリジェンス基盤

事業環境変化への適応力向上

<第3回> 効果的なインテリジェンス実装の進め方

2025.7.8
丸貴 徹庸

近年、目まぐるしい環境変化に対応し成長することが企業に求められる中、外部情報を迅速に収集し、意思決定に生かすインテリジェンス機能の重要性が増しています。当社の支援事例を踏まえ、インテリジェンス業務を推進する際のポイントを、連載コラム「インテリジェンス基盤」としてお伝えします。

■連載コラムでわかること(予定)

  • 第1回:事業環境変化への適応に向けたインテリジェンス機能の組織への実装
  • 第2回:組織のインテリジェンス機能におけるAI技術の活用
  • 第3回~:効果的なインテリジェンス実装の進め方

※各記事のテーマは変更となる可能性がございます。あらかじめご了承ください。

「必要性は分かっている。では、何から手を付けようか?」
本連載コラムではこれまで、インテリジェンス機能の概要(第1回)、AIによる高度化のポイント(第2回)を述べてきました。第3回ではインテリジェンス機能を組織へ効果的に実装する進め方について、私たちのコンサルティングの現場で得られた知見をもとに、実践的なヒントをお伝えします。

インテリジェンス基盤構築5つの論点

いまや生成AIの活用がビジネスのトレンドとなっていますが、いきなりAIに全て頼ることはできません。(1)ブラックボックスではなく、腹落ち感がなければ判断できない、(2)一般論を追求してもしかたがない、我が社固有の価値観や意思を反映しなければ意味がない、(3)他の事例や知見とも結びつけ、柔軟な発想の転換、時には発想の飛躍が必要、(4)網羅的な情報の列挙ではなく、的確に抽象化しなければ議論できない。このような問題を回避するために、まず以下に示す5つの論点をクリアにすることが重要です。
【図表1:インテリジェンス基盤構築の5つの論点】
インテリジェンス基盤構築の5つの論点 出所:株式会社 三菱総合研究所
事業ポートフォリオの評価、主力事業のコントロール、ロビイング活動、ブランディング、これら目的に応じて分析する情報の粒度やアウトプットの質、頻度などが変わってきます。そして最も重要なのは時間軸の視点と言えます。足元の脅威と、大きな変革の中での機会の捕捉とでは、分析のフレームワークが異なります。親会社の立場と、事業会社や事業部門としての役割を整理しておかなければ、インテリジェンス機能を担う組織は混乱を来すでしょう。目指す姿に最適な情報基盤のあり方の議論も必要です。潤沢に人手をかけられず省人化を目指すためにも、インテリジェンス基盤は情報システム基盤と密接に関係します。一夜にして夢のような基盤も整備できません。確りとしたマイルストーンを持たなければいけません。
それぞれの論点について自社の現状を見極め、最短の取り組みの戦略を立てることが求められます。
【図表2:企業の取り組み事例】
企業の取り組み事例 出所:株式会社 三菱総合研究所

組織知を形式知化する「テーママップ」の作成

テーママップについては第1回で触れましたが、ここではその意義を説明します。
組織が意思決定をする際、関係者の間には所管する範囲、立場、これまでの経験によって多様な見解が存在し、時に衝突もします。結論に至るためには、経営、現業部門、インテリジェンス担当組織の間で認識を共有することが必要です。属人的な解釈の上に成り立った活動では持続的とは言えません。組織が考えるインテリジェンスの共通言語化が、テーママップの作成です。
【図表3:テーママップの概観】
テーママップの概観 出所:株式会社 三菱総合研究所
テーママップは上図に示すように3つの階層を持ち、最上位の第3階層が企業に影響を与える具体的なテーマ、最下層の第1階層が一般的なマクロ動向となります。当社の重要な関心事である原材料の調達(第3階層)は、輸出入規制や争奪といったシナリオの想定幅(第2階層)に影響を受け、シナリオが動く予兆を把握する目的でマクロ動向(第1階層)を観測する、などと整理できます。企業の関心事(第3階層)とシナリオの考え方(第2階層)によって、企業ごとにオリジナルなテーママップが完成します。
拠り所となる考え方を明らかにすることで外部環境への理解が深まります。テーママップは固定的ではなく、ビジネスモデルの変化やゲームチェンジャーの出現によってメンテナンスをしていく必要があります。本質を逃さずに分析の説明力を向上させるテーママップの作成は、インテリジェンス実装の入口として非常に重要です。

テーママップ作成後の活動例と効果

まずは初版のテーママップを活用したインテリジェンス活動の端緒となる取り組み事例を紹介します。

① 経営会議の高度化

取締役会や経営会議で、中長期のビジョンの議論に乏しいと伺います。四半期単位でテーママップに沿って、特に第2階層に注目し、経営または事業責任者として備えておくべき世界の「幅」を議論します。世界情勢の解釈を共有し、戦略分野の軌道修正や選択肢の持ち方、ノンオーガニックな成長機会の探索などの議論の質を高め、事業部門とコーポレート部門との健全な牽制関係を構築します。

② バックキャストの検証

長期ビジョンからバックキャストで作成した事業計画について、描いていたシナリオが本当にその方向に向かっているのか(第2階層)、黄信号や赤信号が点灯しているのであれば何が問題となるのか(第3階層)を察知することで事業ポートフォリオを評価し、戦略領域へのリソース投入を進める、逆に引き締める、異なる領域を強化しておくといったリソース配分へ反映します。

③ 中期経営計画(中計)策定と更新に向けた取り組み

中計の策定に多大な労力をかけても、3年の間に陳腐化や不整合を起こします。ローリングしながらの運用を選択する企業も増えていますが、②で述べたバックキャストの検証に留めず、日々のインテリジェンス活動を中計策定と更新のプロセスに組入れて、迅速で柔軟な事業計画の策定を目指す企業が現れています。
三菱総合研究所は、インテリジェンスの実装から業務の伴走支援、経営・事業戦略の立案と実行まで行っています。次回以降も、具体的な事例を交えながら、インテリジェンス基盤の活用法について詳しく紹介していきます。
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筆者

丸貴 徹庸
株式会社三菱総合研究所
ビジネスコンサルティング本部
経営マネジメントコンサルティンググループ チーフコンサルタント/特命リーダー

民間企業のエンタープライズリスクマネジメント(ERM)再構築、インテリジェンス活動支援、危機管理顧問、事業継続マネジメント(BCM)活動支援等のコンサルティング業務に従事。多様な業種・業態の知見に基づき、本質的課題の特定と解決支援に向けて、率直なご提言を心掛けています。