<顧客事例>
建設業で急務の若手人材の育成。社内に蓄えてきた技術・ノウハウ資料を用いた突破口とは?生成AI活用による自社専用RAG構築を目指す、株式会社きんでんの取り組みと今後の課題

株式会社きんでん 様

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写真前列右から 株式会社きんでん 技術企画室
有田 隆様
大阪技術企画部 CSチーム 副長 豊田 尚弘様
大阪技術企画部 CSチーム 課長 野見山 和俊様

写真後列右から 株式会社三菱総合研究所 デジタルイノベーション部門
梅田 直樹/太田 慧史/平野 光/人見 健介/坪口 透

2024年12月取材
※所属、役職等の情報は2024年12月時点のものです。

テーマ
生成AI を活用した技術情報検索システム構築に向けたPoC 検証
期間
6か月
概要
  • 生成AIを用いた技術資料検索システム(RAG)の構築
  • 回答精度向上に向けた工夫(データ前処理・構造化と専門用語の登録)
  • 生成された回答内容の検証と、回答文章の日本語の確からしさ検証

若手育成時間の確保と法規が絡む伝承の難度が業界課題

技術企画室 大阪技術企画部 CSチーム 課長 野見山 和俊様

MRIまず、業界やきんでん様の業務において抱えている課題についてお聞かせいただけますか。

きんでん建設業界では、人材育成が大きな課題となっています。少子高齢化に伴い、経験豊富なベテラン技術者が退職していく中、彼らの技術を如何に若手社員に伝えるかに苦慮しています。また、2024年4月から適用された「時間外労働の上限規制」もあり、ベテラン技術者が若手社員の教育や育成に割く時間を十分に確保できないのが現状です。建設現場では突発的な問題に臨機応変に対応することが重要です。このような対応は現場経験がものを言うのですが、育成機会そのものが少ない中で、現場経験の少ない若手社員をどう支援するかが課題です。
また、業務効率化も重要な課題です。我々の業務には多くの手順やルールがあり、これらを効率的に処理する仕組みが求められています。例えば、建設技術に関する法規制は多岐にわたり、それらの情報を迅速かつ正確に把握する必要があります。しかし、工事仕様と法律の関係は複雑で、正確な紐づけには実務経験やノウハウが必要です。そしてそのノウハウの属人化が、後進育成を困難にしています。
こういった課題を解決するために、ベテラン技術者の知識やノウハウを若手社員に効率的に継承し、業務に活用できるような仕組み作りが重要だと考えています。その結果、ベテラン技術者が若手社員に教育・育成する時間を確保できるとともに、若手社員が自己学習する際の効率の向上に繋がると考えます。

これまでの取り組みの技術的限界と、生成AIによる突破への期待

MRIその課題に対して、これまでどのような戦略や取り組みを実施してきたのか、また、その中でどのような困難があったか教えてください。

きんでん当社技術企画室では、若手社員の育成と業務効率化を目指し、いくつかの取り組みを行ってきました。以前も自然言語処理技術を用いた検索システムを検証しましたが、生成AIが登場する前であったこともあり、十分な成果を得ることができませんでした。関連性の高い情報を迅速に抽出するためには、専門用語や類義語の整備が必要であり、その整備には多くの時間をかけて人の手で行うか、または高度な自然言語技術を用いた研究開発が必須で、実現の壁が高いと感じました。
今回、MRIとの意見交換を通じて、生成AI技術、特に大規模言語モデル(LLM: Large Language Models)の進化により、これらの課題を解決できる検索システムの有効性と実現可能性が見えてきたため、実業務に向けて技術検証(PoC)を行うことにしました。

RAGを構築し現行システムと比較、回答精度向上の工夫も実施

MRI今回、我々MRIと共に実施したプロジェクトの具体的な内容について教えてください。

きんでん今回のプロジェクトでは、生成AIを用いた高度な検索システムを試行しました。具体的には、社内の技術資料を対象に、大規模言語モデルを利用したRAGと呼ばれる仕組みを構築し、業務での有効性を検証しました。
※RAG…Retrieval-Augmented Generationの略。情報の検索(Retrieval)と生成(Generation)を組み合わせることで、回答精度を向上させる仕組み。

【図1:システム概要】

出所:三菱総合研究所

きんでん具体的にはまず、社内の技術資料を対象にRAGを構築し、現在社内で使用しているキーワード検索システムと比較しました。キーワード検索システムは入力した質問のキーワードで文書を検索するのに対し、RAGでは質問に対して関連する情報を統合して回答を生成する点が大きな違いです。複雑な技術的な質問に対しても、過去の技術提案書や関連する技術文書などから適切な情報を抽出し、1つの回答としてまとめることが可能です。これにより、現行の検索システムでは難しかった高度な検索ニーズにも対応できるようになりました。
さらに、2つのアプローチでRAGを高度化しました。1つ目は、検索対象となる社内の技術資料に対するデータ前処理・構造化です。RAGへの登録前に、キーワード抽出やトピック抽出、要約文章の生成といった処理を行い、データ抽出精度を向上させました。2つ目は専門用語の追加登録です。電気設備工事業界の専門用語辞書を作成し、生成AIが質問文や文書内の用語を理解できるようにしました。あわせて、生成AIが生成する回答文章の実業務への有効性を検証しました。その結果、回答精度の向上を実現すると同時に、生成AI技術の課題も明確にできました。

技術企画室 大阪技術企画部 CSチーム 副長 豊田 尚弘様

生成AIの実力と可能性を、自社業務に照らして詳細に把握

MRIこのプロジェクトの結果として、どのような知見や成果を得られたか教えてください。

きんでん今回のプロジェクトを通じて、生成AI技術の現状を実際に体感できました。当社業務に生成AIがどの程度活用できるか、その実力を詳細に把握できたのは大きな収穫です。特に、生成AIの導入で得られる具体的なメリットと、現在の技術的な課題を把握することができました。
まず、生成AIにより、従来の検索システムでは対応しきれなかった高度な検索ニーズに対応できる可能性が見えてきました。社内の技術資料などの大量の文書データから関連する情報を自動的に統合し、1つの回答として提示する機能は、業務効率化に大きく貢献します。ベテラン技術者は情報収集に費やす時間を削減し、より創造的な業務や問題解決に集中できるようになります。また、若手社員への教育にも時間を割けるようになります。
若手社員は、技術提案書の作成や基本計画の立案といった重要な業務においても、過去の類似事例やベストプラクティスを迅速に参照できるようになります。これにより、担当者による品質のばらつきを軽減し、提案の質の向上が見込めます。
さらに、質問に対して直感的かつ具体的な回答を得られるため、若手社員が業務に必要な知識を効率的に学習できるようになります。忙しいベテラン技術者に代わり生成AIが質問に気軽に答えてくれるので、若手社員のサポートツールとしても役立つでしょう。
一方、生成AIを実業務で使っていく上での課題も見えました。回答のぶれ、正確性の担保、質問文の質による回答への影響といった、生成AIの技術的な課題があります。図や表の形や中に記載されている内容を取り込むための工夫も必要です。加えて、より専門的な知識や法律関連の知識を取り込むにあたり、著作権や法制度にも留意する必要があります。これら課題については、今後の技術進歩と環境変化を注視しながら、解決していきたいと考えています。

技術先行ではなく、課題起点で業務に使えるようにする

技術企画室 有田 隆様

MRIMRIの支援について、特に評価していただいた点は何でしょうか。また、なぜMRIを選んだのか教えてください。

きんでん業界や当社が持つ課題を理解し、中長期的な目線で支援していただきました。プロジェクト序盤では、業務やユースケースに関する丁寧なヒアリングや打ち合わせを実施し、当社の要求事項を理解し、業務内容に即したシステム構築および検証の計画を立案していただきました。プロジェクト遂行中は、生成AIへの深い知見と経験をもとに、当社メンバーが理解できるように丁寧に説明いただくなど、親身になってご支援いただきました。プロジェクトの肝である生成AIに関するレクチャーや、社内向け勉強会も実施いただいたおかげで、我々も技術的な内容を理解した上で検証を進められました。複数の大規模言語モデルを比較検証し、当社の要求に即した検索システムを構築できたと考えています。知見の提供から検証推進、システム構築まで、一貫して一任できる点が魅力だと思います。

より専門性を高めた検証と全社展開を通じて、業界課題の解決へ

MRI最後に、今後の取り組みやMRIへの期待についてお聞かせください。

きんでんこの取り組みの最終的な目的は、我々が抱えている業務課題を解決することです。そのため、単なる技術検証で終わらせることなく、将来的な全社展開も視野に入れて取り組む予定です。具体的には、試行導入に向けて、技術文書の種類を増やし、より専門的な知識に基づく追加検証を始めています。また、他の業務への応用可能性、生成AIのさらなる精度向上、情報の信頼性確保といった面でも検証を進めたいと考えています。
生成AI技術の進化は非常に速いため、新しい技術を取り込んでいくことは非常に重要です。常に生成AI技術の最新動向を確認し、実業務への応用方法を検討する必要があります。MRIには引き続き豊富な経験と先駆的な取り組みに基づいたアドバイスと支援を期待しています。

企業プロフィール

株式会社きんでん 様

1944年に設立。大阪市に本店を持つ総合設備工事会社。主な事業内容として、電気設備、情報通信設備、空調・衛生設備などの設計、施工、保守管理を提供。再生可能エネルギー事業にも注力し、国内外でインフラ整備に貢献。高い技術力と信頼性を活かし、多様なニーズに応える総合設備工事業界のリーディングカンパニー。

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