生成AIコラム

第1部 企業における生成AIの活用法

第1部 企業における生成AIの活用法 第1回:「なぜ生成AIが注目されるのか」~企業のDX課題解決の切り札~
2023.9.29
研究理事 比屋根 一雄

三菱総合研究所は生成AI時代の始まりに向け「生成AIラボ」を新設する。それを記念して「三菱総研 生成AIコラム」の連載をお届けする。

※「三菱総研 生成AIコラムシリーズ」はこちら。

1. 生成AIへ高まる企業の期待

企業において生成AIは様々な用途で活用が期待されている。現在のOpenAI ChatGPTを使うだけでも、日常業務で役立つシーンは多い。社外情報収集に始まり、メール文案作成、レポート要約、通達添削、議事録作成、企画立案等、数限りない。全社員が使えるので、導入効果は極めて大きい。
業務・ビジネスにおけるデジタル変革(DX)の課題を生成AIで解決の道が開けた。その効果はいろいろあるが、①利用者拡大、②自動化進展、③顧客体験革新、の3点が大事である。


効果①利用者の拡大:「誰でもAI」「気軽にAI」「何にでもAI」


従来の特化型AIは、特定業務の特定データをAIが学習し、そのAIを使うのも特定業務に携わる一部の社員だけであった。ChatGPTのような対話型の生成AIでは、ユーザーインタフェースが自然言語になったため、誰でも気軽に使うことができる。しかも、汎用性が高いため、多様な業務に活用できる。
つまり、「誰でもAI」「気軽にAI」「何にでもAI」で全社員にAI利用者を拡大できる。


効果②自動化の進展:自動化で残された最後のピースを埋める生成AI


何十年も前から業務改革の必要性が叫ばれ、近年はデジタル変革(DX)として進めてきた企業は多い。その中で自動化は最重要トピックである。しかし、RPA(ロボット・プロセス・オートメーション)を導入しても、業務プロセスの一部しか自動化できない。なぜならRPAは定型的な作業を自動化するものだからである。かといって従来のAIは特化型AIであり、一部の特定業務しか自動化しない。
人間の判断やチェックが多くの業務で残った。複雑な分析やレポート作成も未だ人間の仕事である。このような非定型の業務こそ生成AIが活きる。


効果③顧客体験の革新:


業務改善に止まらないデジタルビジネス変革こそがDXであると言われ続けている。中でも顧客体験の革新はビジネス変革の第一歩として重要視されている。
生成AIは対話を通じて、顧客を様々な形でサポートできる。ITサービスやシステムの使い方を、メニュー画面操作や文字入力から、自然言語の対話操作に移行できる。操作性を飛躍的に向上できる可能性がある。これが進めば、従来対面で接客せざるを得なかったサービスも、本格的なオンライン接客へ移行できる道が開けた。
また、パーソナライズやコンテンツの最適化にも生成AIが活用できる。
【図表:DXの課題を解決する生成AIの導入効果】
出所:株式会社 三菱総合研究所

2. 生成AIへの高い注目度

実際、過去のITブームに比べても生成AIの注目の速さは際立っている。Yahoo!の検索数を調べると、DXブームは1年かけて徐々に上昇してきたことが分かる。一方、生成AI(「GPT」を含む)はわずか3ヶ月で10倍に検索数が急上昇した。
【図表:Yahoo!検索数の比較(DX vs GPT)】


〇識者も変革期とみている


単なるブームを超えて、大きな変革期を迎えたと見る識者も多い。AI分野の第一人者である松尾豊教授(東京大学)は、生成AIについて次のように語った。
「インターネットの発明よりも大きな変化が起きる」
「今度は本当に仕事を奪われるかもしれない」
第3次AIブームの中、2018年頃にAIによる雇用喪失が予測されたが、案外変わらなかったというのが実感であろう。実際には、見えにくいところでAIが仕事を代替しているのは確かだが、少なくとも日本では雇用減少は顕在化していない。
しかし、今回は大企業を中心にかなりの自動化を目論んでいる。例えば、IBMはバックオフィス職の30%を5年でAI代替できるため、今後数年間は新規採用を止めると発表した。
技術的にも大きな革新であると感じる識者も多い。マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏は次のように述べた。
「私の人生の中で衝撃を受けた2つの技術デモ、
最初が1980年のGUI、2回目が2016年のOpenAI」
GUIというのは、キーボード入力だけだった時代に、マウス操作でコンピューターを操作するユーザーインタフェースのこと。後に世界に衝撃を与えたWindow 95の発売につながった。言語生成AIはそれ位大きな衝撃だったということだ。


〇AIが言葉を持った


また、松尾教授は2016年頃に深層学習の登場を評して次のように述べた。
「深層学習でAIは目を持った。AIビジネスのカンブリア爆発が始まる。」
生物の進化において、目を持つことは大きな意味があった。目を持つことで、遠くを認識できるようになり、生存率や捕食の成功率が飛躍的に向上した。敵に出会ったときに複数の戦略を取れるようになった。これによって生物が多様化できたのであると。
今回の生成AIは、いわば「生成AIでAIが言葉を持った」こと。哲学者のウィトゲンシュタインはかつて「私の言語の限界が、私の世界の限界を決定する」と述べた。生成AIが汎用的な言語処理能力を手に入れたことで、AIが扱える世界の限界が飛躍的に広がったとみることができる。それはAIビジネスの限界を大きく広げることに他ならない。
したがって、言葉を持った生成AIは、全業種・全業務において確実に変化をもたらすだろう。

3. 生成AIの認知は広がり、利用意向も多様

当社は2023年6月に「ChatGPT緊急アンケート調査」を実施した。売上高100億円以上の大企業でDX推進に関わる社員約900名が対象である。比較的デジタルに先進的なユーザ層である。
ChatGPTの認知度は十分に高い。「理解している」と答えた人は57%、「聞いたことがある」の36%を含めれば、9割以上が認知している。さらに仕事で利用経験があるかという質問には、19%が利用経験ありと答えた。
【図表:ChatGPTの認知度と仕事での利用経験】
出所:三菱総合研究所
(調査方法:WEB調査、調査時期:2023年6月、調査対象数:902、その他:なしには分からないを含む)

仕事に利用したことがある用途を具体的に聞くと、多様であった。最も多いのが、Web検索代わりの「外部情報収集」53.8%である。生成AIらしい使い方として、「文章要約・翻訳」48.6%、「レポート作成」40.5%が続く。「議事録作成」「営業資料・パンフ作成」「企画書・稟議書作成」も30%弱が経験ある。
多様な利用可能性が認識されているだけでなく、実際に試している様子が伺える。まさに「何にでもAI」「気軽にAI」である。
【図表:ChatGPTを仕事で利用したことのある用途】
出所:三菱総合研究所
(調査方法:WEB調査、調査時期:2023年6月、調査対象数:902)


なぜChatGPTをはじめとする生成AIはなぜ注目されているのか。企業ではこれまで苦労してきたDXの課題を解決する切り札としての期待が高い。実際に、DX担当者は使い始めて、様々な用途で試している。生成AIの活用を早急に検討したい。

筆者

筆者 比屋根 一雄 株式会社三菱総合研究所 執行役員・研究理事 デジタルイノベーション部門 生成AIラボ センター長
比屋根 一雄
株式会社三菱総合研究所 執行役員・研究理事
デジタルイノベーション部門 生成AIラボ センター長

経済産業省のAIプロジェクトで研究リーダーを10年務める。ビッグデータ解析・AI技術を活用したDXコンサル&AIソリューション事業、および、社内のデジタル変革を主導する。専門は人工知能(AI)の技術・産業動向、社会インパクトの研究。10月より生成AIの活用を加速するため「生成AIラボ」を創設した。

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