生成AIコラム

第1部 企業における生成AIの活用法

第1部 企業における生成AIの活用法 第3回:~5ステップで導入を拡大しよう~(中編)
2023.10.12
研究理事 比屋根 一雄

三菱総合研究所は生成AI時代の始まりに向け「生成AIラボ」を新設する。それを記念して「三菱総研 生成AIコラム」の連載をお届けする。

※「三菱総研 生成AIコラムシリーズ」はこちら。

5. 社内情報をチャット検索【Step 3】

社内文書検索に1日20分、1年間で80時間相当に費やしているという(コクヨ調査)※1 。単に社内規則が知りたい、過去実績が知りたいなど、特定の情報を見つけたいだけではない。社内手続きのやり方や、社内システムの操作方法、といった手順の知識を探したい場合もある。あるいは、こんな知見やスキル・経験を持った人を探したいこともある。内部監査報告書から自部署への指摘事項を確認して、他部署でどのように対応したか知りたいなど、複合的なニーズになっていることもあるだろう。
従来の文書管理システムでは、キーワードを含む文書のリンクが見つかり、該当箇所をハイライトするのがせいぜいである。見つけることすら困難だった紙文書の時代に比べれば、飛躍的に便利にはなった。
Web検索同様に、生成AIによるチャット検索に代われば、情報を得る手間が軽減される。それが最初のメリットであるが、手間の軽減だけではない。

〇文書管理システムで生成AIを使うには

生成AIは事前学習されており、社内文書を追加学習するのは簡単ではない。ファインチューニングという追加学習の方法を使えば、社内文書全体を学習することはできる。しかし、高い技術力と高額な費用を要する。ファインチューニングできるIT企業はまだ多くない。また、社内文書が増える度に追加学習するのは大変でもある。
そこで文書管理システムの検索機能と生成AIを組み合わせるのが一般的である。質問文の中からキーワードを抽出して、文書管理システムを検索する。ヒットしたそれぞれの文書の該当箇所の周辺文章を抜き出す。それらの文章を与えて生成AIに回答させるのである。こうすることで生成AIに追加学習することなく、社内文書について回答を得ることができる。
最初はFAQ検索システムと生成AIを連携することをお勧めする。長大な業務マニュアルを検索すると、どうしても不要な記述が多数ヒットして、生成AIに与えられる文字数に減らすのが難しいからである。FAQであれば1文章が短く、複数FAQを与えることもできる。FAQは質問回答の形式であるため、生成AIの回答も妥当なものが得やすいだろう。
【図表:文書管理システムと生成AIの連携】
図表:文書管理システムと生成AIの連携
出所:株式会社 三菱総合研究所



〇複数の情報源から横断的に検索

文書管理システムは一つではない。規則集、業務マニュアル、FAQはたいてい別システムで管理されている。 所管部署ごとに分かれている場合もある。見積書や企画書等はそもそも文書管理システムに登録されておらず、 文書ファイルとしてフォルダーに置かれていることも多い。
複数のシステムに対して並行に検索をかけ、フォルダー検索の結果も併せて統合してから生成AIに与える。こうすれば多様な検索ニーズに対し、一つの入口から検索できるし、あちこち検索を繰り返す必要もなくなる。

最近、クラウドファイル管理サービスDropboxは自社内のみならず他社サービスも検索できる「Dropbox Dash」を発表した。Google Workplace、Microsoft Outlook、Salesforce等と接続し、横断的に生成AIで検索できるとのこと。

〇ヘルプデスクやコールセンターでの支援

社内外の問合せを受け付けるヘルプデスクやコールセンターでは、日々の応答業務で検索を使う。検索頻度が高いので、生成AIの導入が最も効果的な業務である。
素早い回答を求められるため、リンク先を探す時間の節約効果がまず大きい。加えて、回答が文章の形で返ってくるので、問合せに対しそのまま読み上げれば回答できる。
米国経済研究所(NBER)の調査では、生成AIのサポートを受けると時間当たりの解決数が平均14%向上したとのこと。※2 初心者や低スキル者の改善効果が大きく、熟練者はほとんど変わらなかった。つまり、熟練者の知識が速やかに伝授され、スキルの底上げ効果がある。
先ほど業務マニュアルを検索するより、FAQ検索の方が、妥当な回答を得やすいと述べた。FAQは依然として有用である。このFAQ作成にも生成AIは役立つ。過去の質問に対して、業務マニュアルから回答案を生成させれば、FAQ作成の手間が大きく軽減できる。また新規あるいは改定された業務マニュアルに対し、想定質問を生成AIに考えさせることも有用であろう。
いずれ対話AIが直接チャット応答や音声応答する時代が来る。しかし、現時点では間違い回答も生成するため、オペレータを介して生成AIを利用するのが自然である。ただし、社内用途であれば、社員にFAQのチャット検索を開放して、そもそも問合せずに自己解決を増やすことも考えたい。
【図表:コールセンターにおける生成AIの活用法】
図表:コールセンターにおける生成AIの活用法
出所:株式会社 三菱総合研究所



6. 社内文書を学習させタスク実行【Step 4】

業務における生成AI活用の本丸はStep 4である。生成AIに社内文章を学習させて、何らかのタスクを実行するフェーズである。多様な活用方法が考えられ、すべては紹介できない。代表的な活用法をいくつか紹介する。

〇商品紹介ページの制作

多くの企業が商品紹介ページを持っている。ネット販売サイトでは数千・数万の商品が並ぶこともある。これらすべての商品について、十分な説明文を提供できない課題がある。賃貸住宅や中古車のように、日々商品が追加され説明文が乏しい業種ではなおさらである。
説明文の元となる商品の仕様データや画像は商品データベースに格納されている。新たな商品が届いたら、その仕様データや画像を生成AIに与えて、紹介ページのキャッチコピーや商品説明文を生成できる。過去の類似商品の説明文も与えれば、統一感ある文章を生成できるだろう。
【図表:商品紹介ページの制作】
図表:商品紹介ページの制作
出所:株式会社 三菱総合研究所



〇稟議書の作成

金融機関の融資判断では、多数の稟議書を作成している。財務諸表を入手し、財務状況を分析する。経営者のコメントや取引先の状況などを総合的に判断して稟議書にまとめている。
財務状況の説明文章を生成する。財務分析を自動化する。分析結果から気になる点を抽出する。コメント等その他のデータや文章を要約する等々、生成AIの使いところは多い。
当社は2018年に「数表から文章を自動生成する文章生成AIサービス」 を開発した。財務諸表の数値データから数百文字の説明分を生成できる。また、当社の「リテールローン審査AIサービス」では、人間の審査ノウハウを学習して審査を自動化している。これらの技術を生成AIを組み合わせれば、稟議書作成もかなり自動化できるだろう。
【図表:稟議書の作成】
図表:稟議書の作成
出所:株式会社 三菱総合研究所



〇営業員の営業トークをサポート

法人営業では、顧客を巡回して案件ニーズを聞く、いわゆる「御用聞き営業」では成果が出ないと言われ続けてきた。提案営業やコンサル営業にシフトせよと。しかし、何を提案すれば良いか分からず、困っている営業員も多いようである。
生成AIに訪問時の営業トークのネタを考え1枚にまとめるシステムが考えられる。顧客対応記録や提案書データベースから訪問顧客の情報を抽出し、顧客企業や業界最新ニュースと共に与えるのである。いわば営業トークの指南書である。
顧客の関連情報を整理してまとめる機能を持つ顧客管理システムはすでに存在する。生成AIを使えば、具体的な営業トークの形で提供できるだろう。
【図表:営業員の営業トークをサポート】
図表:営業員の営業トークをサポート
出所:株式会社 三菱総合研究所



〇業務プロセスの自動化

何十年も前から業務改革の必要性が叫ばれ、近年はデジタル変革(DX)として進めてきた企業は多い。その中で自動化は最重要トピックである。しかし、RPA(ロボット・プロセス・オートメーション)を導入しても、業務プロセスの一部しか自動化できない。なぜならRPAは定型的な作業を自動化するものだからである。かといって従来のAIは特化型AIであり、一部の特定業務しか自動化しない。 
人間の判断やチェックが多くの業務で残った。複雑な分析やレポート作成も未だ人間の仕事である。このような非定型の業務こそ生成AIが活きる。
例えば、マーケッターが先月の売上状況の分析レポートを作成する業務を考える。販売管理システムから売上データをダウンロードするのはRPAに任せられる。好調・不調の商品に対してその要因を見つけるような売上データ分析は生成AIに指示できる。分析結果を文章とグラフでレポート化するのも生成AIである。レポートはRPAでマーケッター等の必要なメンバに自動送信すればよい。
このようにRPAで自動化した後に、人に残された作業を、業務プロセスの最初から最後まで、生成AIで自動化できる。生成AIはデジタル業務改革における最後のピースと言える。
【図表:業務プロセスの自動化(売上データ分析)】
図表:業務プロセスの自動化(売上データ分析)
出所:株式会社 三菱総合研究所



〇サプライチェーン・リスクへの迅速対応(高度な活用)

前述の自動化の一つとして、他の分析システムや予測AIと組み合わせて、高度な自動化を実現した例がある。メルセデスベンツでは、災害や紛争等のサプライチェーンに影響するグローバルなリスクを常に監視している。
ネットからリスク関連ニュースを検知したら、生成AIでリスク記述を抽出・要約する。サプライチェーンの統合プラットフォームの生産・輸送・在庫・販売データを参照して、リスク分析システムでリスクを特定する。そのリスクが生産や輸送にどれだけ影響するかをAIで予測する。リスク関連ニュースと予測データ等を合わせて、生成AIがリスクレポートを生成する。リスク担当者に素早く届ける。その結果、サプライヤーと早期に調整でき、リスクの被害を最小限に抑えられるようになるのである。
ただし、このような仕組みが有効に働くためには、サプライチェーン全体をカバーする統合プラットフォームが欠かせない。リスクを検知できても、その影響を算出できないからである。
【図表:サプライチェーン・リスクへの迅速対応】
図表:サプライチェーン・リスクへの迅速対応
出所:「なぜ、メルセデスベンツは「生成AI」を使う?期待できる効果が凄すぎる理由」を参考に三菱総合研究所が作成、https://www.sbbit.jp/article/st/113694




後編では、 Step 5を紹介する。
  1. ※1: コクヨ「書類を探す時間は“1年で約80時間”」
     https://www.nber.org/system/files/working_papers/w31161/w31161.pdf
  2. ※2: National Bureau of Economic Research, “Generative AI at work”, 2023,
     https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000107.000023621.html

筆者

筆者 比屋根 一雄 株式会社三菱総合研究所 執行役員・研究理事 デジタルイノベーション部門 生成AIラボ センター長
比屋根 一雄
株式会社三菱総合研究所 執行役員・研究理事
デジタルイノベーション部門 生成AIラボ センター長

経済産業省のAIプロジェクトで研究リーダーを10年務める。ビッグデータ解析・AI技術を活用したDXコンサル&AIソリューション事業、および、社内のデジタル変革を主導する。専門は人工知能(AI)の技術・産業動向、社会インパクトの研究。10月より生成AIの活用を加速するため「生成AIラボ」を創設した。

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