生成AIコラム

第2部 ホワイトカラー業務における生成AI

生成AIラボ設立趣旨~生成AIでデジタル変革を加速する~
2023.11.16
研究理事 比屋根 一雄

三菱総合研究所は生成AI時代の始まりに向け「生成AIラボ」を新設する。それを記念して「三菱総研 生成AIコラム」の連載をお届けする。

※「三菱総研 生成AIコラムシリーズ」はこちら。

1. 企画業務こそデジタル変革(DX)が必要

変化の激しい時代である。長年同じ業務を繰り返していれば収益が上がる時代は過ぎようとしている。どの企業でも新たな取り組みが増えているはずだ。新たな取り組みの始まりは「企画」である。


〇企業変革を支える様々な企画部

企画業務は経営企画部だけのものではない。新事業企画、営業・マーケティング企画、研究企画、システム企画、人事企画等々、企画部や企画課として常設されているだけでなく、 数名の担当者が担っている場合もあろう。DX推進部のように全社変革プロジェクトの企画・推進主体として設置されていることもある。
いくつもの「企画部」が経営変革を支えている。 優秀な社員が異動で配されることが多い。担当者は不慣れな企画業務や多数の案件にハードワークで対応している。 しかし、対処すべき課題は山積み、有望人材は不足、もはや限界という声を聞いていないだろうか。


〇企画業務に課題は多い

企画業務の課題は、定常的な業務と異なり、単にITシステムやデジタルツールを導入しても解決しない。毎回少しずつ異なる非定型な業務であることが一因である。また、企画業務といえば企画立案を思い浮かべるが、実際には周辺業務にも課題が山積している。
異動して間がなかったり新たな取り組みであることから、企画業務の進め方が分からなかったり手間を要したりする。実施すべきタスクやマイルストーンをどのように設定すればよいか、社内外からどのような情報を収集すればよいか、等である。
企画業務の中でも社内外の関係者との合意形成が大変であるという声も多く聞く。いろいろなステークホルダーと何度も打ち合わせるだけでも負担だが、その資料を用意する、指摘事項に対応するなど多大な手間がかかる。


〇企画部の抱える悩み

これらの課題を持つ企画部は、次のような悩みを抱えている。
悩み1:業務が雑多で考える時間が不足
リサーチから交渉まで企画業務は幅が広い。雑多な作業に忙殺されて企画を深める時間がとれない。関係者が多く、調整も大変で時間をとられる。
悩み2:大きな成果につながるアイデアが欠如
小粒なアイデアが多く、大きな成果が得られないという悩みもよく聞く。これはアイデア創出のメソッドを持っていないことや、企画の良し悪しを客観的に評価するすべを持っていないことが要因の一つである。
悩み3:企画人材が不足
社内に企画向きの人材が少ない。企画向きの人材は現場が手放さない、という悩みは深刻である。なにより企画人材の育成には時間がかかるものであるから。


〇チーム×デジタルで解決

これらの企画部の悩みを解決する一つの方法はチームプレーである。一人で抱えず、複数の案件を複数の人で解決すること。多くの人の助けを少しずつ借りることである。課題が多様化しているので、企画部だけでなく、社内他部署や外部人材の助けを借りて、各々が得意分野を担当できるとよい。
複数人で協働するには企画業務のタスク分解とマイルストーン設定が肝心となる。新たな企画課題であっても、解決プロセスは過去の課題と似ている。過去の取り組みを参考にマイルストーンを設定し、タスクに分解できる。企画文書管理システムやプロジェクト管理ツールとAI検索、合意形成の会議支援ツールなど、デジタル技術を活かせるはずである。
【図表:企画部の悩みをチームプレー×デジタルで解決】


2. 企画業務のデジタル変革

当社では、2022年に会員組織「未来共創イニシアティブ」の一環として、「企画業務DX研究会~AIと働く企画部」を実施した。数社の企画部の方々と、将来の企画業務のデジタル変革のありかたについて議論した。当時は、まだ生成AIが注目されておらず、 夢物語であったAI活用も多い。しかし、生成AIの登場で一気に現実味が出てきた。


〇企画の主要業務

企画業務の流れをみてみよう。経営層の指示により企画立案が始まる。社内外の情報収集を踏まえ、アイデアを出し合い、企画案をとりまとめる。複数の企画案を評価し、所管役員や現場部署などステークホルダーの合意形成を経て、企画案を固める。この企画案に基づき、達成ゴールや分解された実行タスク、予算・体制・スケジュール等を含むプロジェクト計画を策定する。そしてプロジェクト計画を経営会議に諮り承認(合意形成)を得る。
企画を立案して終わりではない。プロジェクトが着実に進行しているか、成果が出ているか、課題はあるか、モニタリングが必要である。企画部が実施主体となってプロジェクトを推進する場合もあるだろう。社内への浸透や経営報告、あるいは対外的な広報・IR対応も企画部が担うことも多い。
企画自体の企画・マネジメントに加え、組織運営や広報等の関連業務も担うことも多いようだ。
【図表:企画部の主要業務】


〇企画業務のデジタル変革の主要4タスク

このように多種多様な企画業務であるが、デジタル活用はより大きな効果を得るために、複数の企画部で共通するタスクから取り掛かるとよい。 当社では、①企画立案、②会議運営(合意形成)、③企画評価、④プロジェクト管理、の4つの主要タスクに注目している。


2.1 ①企画立案のDX

企画のゴール(目的)を経営層と十分に共有できない課題がある。経営層の期待とずれてしまうと、たとえ良い企画を立てても期待する成果は得られない。経営層と企画担当の双方に問題がある。経営層が重要視する課題や期待するゴールをしっかり言語化し、それを企画担当が自分の言葉で確認することが重要である。
そのためには、プロジェクト管理ツールで、ゴールの言語化と確認をタスク化することが有効である。言語化の際には、過去企画のゴール設定を企画書管理システムから検索・参照して、十分に言語化できているか検証したい。
過去の経営層の企画レビューを学習させた生成AIと想定問答できるようになるだろう。いわば仮想経営層との壁打ちである。
企画アイデアのアイデアが広がらず発想が貧弱な問題に対しては、ホワイトボード型の共同編集ツールが便利である。アイデアを書き出すことに集中して、書き散らかしても後で整理しやすい。マインドマップやKJ法を実装したツールもある。
生成AIは、アイデア自体を多数生成してくれる。アイデアのタネを膨らませるのはさらに有効である。生成AIをアイデア創出パートナーとして活用したい。
アイデア具体化に際しては情報収集(リサーチ)が欠かせない。エビデンスを集めるためにWeb検索は最も一般的な方法である。しかし、情報源を探すのに時間を要したり、間違った情報を利用してしまう課題がある。
生成AIはWeb検索を飛躍的に効率化する。目的の情報自体をピンポイントで要約文章として提示してくれる。しかし、生成AIは誤情報も多い。信頼できる情報源をリストアップし、そこからの情報だけを検索できる仕組みを作るのが一つの方法である。当社のWebサーベイAI「ロボリサ」は信頼できる情報源だけから、要約レポートを生成することができる。
【図表:①企画立案のデジタルツールと生成AI活用】

2.2 ②会議運営(合意形成)のDX

企画担当者にとって合意形成の負担の多くは会議運営である。会議運営の課題は、
  • ・参加者の予定が重なり困難な会議の日程調整
  • ・手間のかかる人数分の資料の印刷
  • ・不必要に長い会議
  • ・発言しない参加者の多い会議
  • ・結論の出ない会議、あるいは意思決定者が不明確な会議
  • ・参加者の理解レベルがまちまちで議論がかみ合わない会議
  • ・必要性が明らかでない事前レクによる根回し
  • ・会議後に文句を言う参加者
  • ・面倒な議事録の作成
  • ・議事録の長い承認フロー
等々、数え上げればキリがない。会議運営の課題は古くから指摘されてきた。しかし、会議運営を改善できていない企業はまだ多いようだ。
会議支援ツールは、日程調整や会議資料・議事録のオンライン共有に役立つのは確かである。しかし、会議の本質的問題には無力である。
会議ルールを設定している企業もある。1議題30分ルール、1回の発言は1意見に限る、会議資料は3枚以内、会議資料は前日配布で読んで参加のこと、等々。会議ルールを徹底するだけで大きく会議運営の負担は改善される。会議支援ツールの中にはアジェンダ提示や時間管理ルールを実装したものもある。 加えて、発言しない参加者は会議録画の倍速視聴と議事録で参加のルールに代えれば、日程調整の負担は大きく軽減できる。
TeamsやSlack等のオンライン会議ツールでは文字起こしが実装されている。発話テキストを使えば、議事録作成の手間は大きく軽減される。議事録専用ツールも登場している。 今後、生成AIを活用した決定事項やToDoの抽出や、議論を追える適度な要約等、議事録作成は格段に効率化できるであろう。
将来的には、生成AIによるファシリテータAIが期待される。その時点までの議論をまとめて参加者に提示する。未発言者や意思決定者に発言を促す。 逆に長い発言を止める、等の効率的な会議運営をサポートするAIである。当初はファシリテータのサポート役として使われるだろう。
【図表:②会議運営(合意形成)のデジタルツールと生成AI活用】


2.3 ③企画評価のDX

優れた企画を立案するためには、企画の良し悪しを評価することが不可欠である。新事業企画であれば、市場性や顧客ニーズ、競合優位性、収益性、リスク等、ある程度決まった評価観点がある。しかし、DX推進の企画や、人事制度改定の企画など、評価フレームワークが定まっていない企画も多く、評価の難易度は高い。
生成AIは、企画案の評価の観点を的確に列挙してくれる。観点毎に生成AIに企画案を評価させるのは、ある程度有効である。複数案を比較評価する際には是非試したい。

しかし、生成AIはあくまで一般論としての知識しか有していない。企業において良い企画を立案するには、定量シミュレーションと過去企画書の知見の2つを企画案の評価に活用するとよい。
企画には様々な施策が含まれる。施策のKPI(定量的評価指標)を設定し、どのような活動がどの程度の効果を生み出すか、KPIを予測する簡易シミュレーションモデルを作成する。精緻なモデルでなくExcelレベルでも構わない。重要なことは、どのパラメータがどれくらいKPIに影響を与えるかをシミュレーションで見積もることである。これが企画案の改善に役立ち、企画成功の確度向上につながる。生成AIはKPIの提案に役立つ。
また、企業に蓄積された過去の類似企画書と比較することも有用である。過去に似たような企画が立案されたケースは案外ある。生成AIを活用した社内文書管理システムの検索では、単純な全文検索ではなく、企画の目的やプロセスが類似した企画を検索できる可能性が高い。過去の企画書との比較であれば、人の目で差異や類似点を見極めやすく、やはり企画の改善に役立つ。
将来的には、これらの簡易シミュレーションの作成・評価、および、過去企画書との比較評価にも、生成AIが活用できるだろう。
【図表:③企画評価のデジタルツールと生成AI活用】


2.4 ④プロジェクト管理のDX

企画実行時のプロジェクト管理は不可欠である。しかし、十分にタスク分解できていない、進捗管理がExcelで煩雑、という意見もよく聞く。 タスク管理機能が充実したプロジェクト管理ツールを使いこなせれば、多くのプロジェクト上の問題は未然に防いだり、早期に対処できる。進捗管理の手間も大きく軽減できる。
しかし、プロジェクト管理ツールを導入しても、小さなタスクへの分解が難しい、進捗報告がタイムリーに行われない、という声も聞く。当社では、プロジェクトのタスクテンプレートの提供を始めた。 特に、プロジェクト初期段階では共通性が高く、利用価値が高いようである。
プロジェクトのタスク分解と進捗記録・課題は、これまで暗黙知としてしか存在していなかった自社の貴重なナレッジである。今後は、生成AIでタスクを自動生成できるようになるだろう。
将来的には、プロジェクトメンバの日々の活動記録、すなわちメール・チャットやファイルの更新から、生成AIを活用して自動的に進捗や課題を抽出することも目指したい。

企画の評価は立案時だけではない。企画実行時のモニタリングと評価が大事である。その際に各施策のKPIを設定しておけば、モニタリングと評価がやりやすい。 可能な限り収集を自動化し、ダッシュボードで施策KPIを常にチェックできる態勢を整えたい。
将来的には、KPIの収集にも生成AIは活用できるだろう。 進捗会議の資料やプロジェクト管理ツールのデータから、進捗や課題の記述を抜き出し、KPIとして要約すればよい。
また、関係者からの評価意見の収集に生成AIを使うことも考えられる。定期的に生成AIに関係者にインタビューさせ、その評価意見や指摘を分類し要約する。この評価意見は企画実行時の軌道修正に役立つはずである。
【図表:④プロジェクト管理のデジタルツールと生成AI活用】


3. 企画業務への生成AI活用の進め方

これまで企画業務のデジタル変革と生成AIの活用法について、将来の予測も含め多種多様な可能性を提示した。デジタルツールを導入すれば実施できるものから、研究開発が必要なものまで混じっている。
最後に、企画部が取り組むべきデジタルツールと生成AI活用の進め方を考える。
最初に取り組むべきは、既に初期バージョンが存在し、効果が明確なデジタルツールの導入である。①企画立案における、Web検索の生成AI活用アイデア出しの生成AI活用である。ChatGPTをセキュアに使える環境を用意し、当社のWebサーベイAI「ロボリサ」を導入すればよい。
②会議運営(合意形成)では、すでにTeams/Slack等のオンライン会議ツールは導入済み企業が多いが、その文字起こし機能を使った発話テキストに対して、生成AIで議論を要約したり、決定事項/Todo抽出に取り組みたい。ただし、会議運営ルールとセットで導入しないと効果が薄い。
また、④プロジェクト管理には、プロジェクト管理ツールの導入が有効である。ただし、タスクテンプレートやアラート機能で利用者が便利と思わないと活用が広まらない。
最初に取り組む施策がある程度定着したら、生成AIを本格的に活用したい。特に、文書管理システムを導入して、過去の企画書の知見を利用する活用が大事である。①企画立案では、過去の企画レビューを学習した生成AIと想定問答(仮想経営者と壁打ち)ができそうである。③企画評価では過去企画書との比較評価も試みたい。
また、④プロジェクト管理では、生成AIにタスクを自動生成する、生成AIが自動的に課題や進捗を抽出する、生成AIがKPIとして要約して報告する、等が考えられる。
ただし、これらは生成AIである程度できることは分かっているが、未だ試行段階である。今後の研究開発や製品化を待つ必要がある。
企業変革において企画能力は競争力の源泉である。それは企画部だけの話ではない。デジタル・生成AI活用を通じて、企画のハードルが下がれば、多くの社員が企画人材になれる。日々の小さな改善や小さな発案にも企画能力は欠かせない。 企業全体で企画能力がレベルアップすることが、変化に強靭な組織へと成長できるのではないか。

筆者

筆者 比屋根 一雄 株式会社三菱総合研究所 執行役員・研究理事 デジタルイノベーション部門 生成AIラボ センター長
比屋根 一雄
株式会社三菱総合研究所 執行役員・研究理事
デジタルイノベーション部門 生成AIラボ センター長

経済産業省のAIプロジェクトで研究リーダーを10年務める。ビッグデータ解析・AI技術を活用したDXコンサル&AIソリューション事業、および、社内のデジタル変革を主導する。専門は人工知能(AI)の技術・産業動向、社会インパクトの研究。10月より生成AIの活用を加速するため「生成AIラボ」を創設した。

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