生成AIコラム

第2部 ホワイトカラー業務における生成AI

生成AIラボ設立趣旨~生成AIでデジタル変革を加速する~
2023.11.24
研究理事 比屋根 一雄

三菱総合研究所は生成AI時代の始まりに向け「生成AIラボ」を新設する。それを記念して「三菱総研 生成AIコラム」の連載をお届けする。

※「三菱総研 生成AIコラムシリーズ」はこちら。

1. リサーチ業務はWeb情報収集が出発点

Web等から情報収集し分析するのがリサーチ業務である。業界アナリストなど主業務に近い方々もいるが、 多くは他の主業務の前段に位置する周辺業務である。マーケティングや営業では市場動向や消費者ニーズを公開情報から収集する。 新商品開発では技術動向や消費者ニーズのリサーチが必要である。我々コンサルティング企業でも、 市場動向や競合動向、技術動向、政策動向等のリサーチは、比較的大きなウェイトを占めている。
【図表:企業における主なリサーチ業務】

情報源は多種多様である。市場動向や企業動向は、日経テレコン21や日経BPビズボード、Bloomberg、SPEEDA等を活用することが多いだろう。マクロ動向であれば、国の白書や公式統計サービス、業界団体のレポートで調べられる。最新動向はニュースサイトをみる必要がある。技術動向であれば、Google ScholarやJDreamⅢ等の学術情報サービスや、特許情報サービスで深く調べたい。目的に応じて信頼できる情報源を使い分けているだろう。
調査の起点がWeb検索であることも多い。Google検索等のWeb検索はキーワードを含むWebページを全文検索する。Webページの一覧が表示され、次々と開いて目的の情報をWebページ内で探さねばならない。これに多大な時間を要していた。生成AIのチャット検索では、知りたい情報を文章として具体的に入力すれば、短い文章としてピンポイントに要約してくれる。この違いは大きく、情報収集の方法が一変したと言ってよい。


〇ChatGPTを活用した調査レポートの作り方

単にChatGPTにリサーチせよと指示しても、一般論を簡潔に回答するだけである。ステップ・バイ・ステップとして知られる手順を考えさせる指示方法がリサーチでも有用である。
例えば、「製造業におけるChatGPTの利用可能性」をリサーチするには、以下のような手順でChatGPTに指示すれば良い。まずは、ChatGPTに「市場動向調査の担当者」という役割を与えて、リサーチの観点を質問する。約10項目の観点が提示される。次に、これらの観点を元にレポートの章立てを考えるよう指示する。約50の章節項の目次構成に展開される。最後に、この目次に沿って、章節項ごとに文章を生成させれば、数百行に及ぶレポートが完成する。
もちろん、そのままでは根拠や具体性が不十分である。しかし、ゼロからレポートを作成することに比べれば、飛躍的に生産性は向上する。また、自分一人の考えでは抜け落ちがちな観点が網羅されるのもメリットである。
【図表:ChatGPTを活用した調査レポートの生成例】


〇生成AIの誤情報問題

一方で、生成AIには間違いも多いことが問題視されている。いわゆるハルシネーション(幻覚)である。自然な文章で出力されるだけに、誤情報を見分けづらい。

例として「三菱総合研究所のAIサービスの種類と特長を教えて」と質問したときの回答は以下の通りである。
いずれも嘘とまでは言わないが、一般的なAIサービスを並べたようにもみえる。Bartの「AI翻訳」のように当社が手掛けていないサービスも現れた。Bing以外は明確な情報ソースを示していない。各社のAIサービスを比較評価しようとすれば、まったく不十分である。
【図表:「三菱総合研究所のAIサービスの種類と特長」に関するChatGPT、Bing、Bartの回答の違い】

誤情報に関して、現在の生成AIは特に数字に弱い。例えば、「日本の小売業で売上高の上位5社を売上高と共に教えて」という質問に対しては、ChatGPT(GPT-3.5)は、2021年までの情報しか持たないと回答しなかった。Microsoft Bing、Google Bart共に正しい情報を回答できなかった。正解したのは、有償版のChatGPT(GPT-4)でWebPilotプラグインを併用した場合のみである。
このように、現時点では特に数字については、生成AI検索を使い分けたり、情報源の確認が必須であることに注意すべきである。
【図表:「日本の小売業上位5社」対するBing、Bard、ChatGPTの回答】
(GPT-4.0+WebPilotプラグイン)

3. 目的ドリブンなリサーチに変わる

収集した情報を整理するだけではリサーチは終わらない。収集した情報を分析する、インサイトを抽出する、レポートにまとめる、そして共有する。しかし、リサーチ結果が読まれるだけで、誰にも使われなければ、無意味な作業である。
一般的には、何らかの意思決定(判断)に役立てるのがリサーチの目的である。マーケティング戦略を決める、新商品のスペックを決める、投資判断を決める等々。
広く知見を集めたのではキリがない。情報収集、整理・分析、インサイト抽出の一連の流れを、利用目的に沿って実施したい。リサーチ専門家に任せると、無駄に広く集めがちである。本来はレポートを活用する人がリサーチすれば効率的であり、効果的でもある。しかし、リサーチは一定の専門性が必要であり、多大な作業時間を要するが意思決定者には時間がない。
このためリサーチ作業する人(リサーチャー)と、リサーチ結果を使う人(意思決定者)が分かれがちという課題があった。上司と部下、担当者とアシスタント、経営幹部と企画部、発注企業とリサーチ受託企業、たいてい分かれている。
リサーチャーはついつい広く情報を集めてしまいがちである。意思決定者も広く周辺情報も含めてレポートせよと指示しがちである。これでは非効率きわまりない。
生成AIは、リサーチ結果を使う意思決定者にリサーチ実行の道を開いた。意思決定に必要な情報のみをピンポイントに短時間で得られる可能性がでてきたからである。生成AIに問い質して、意思決定に最低限必要な情報を得る。これを仮説として、他の選択肢を探したり、エビデンスを探したりするのも生成AIに指示できる。
意思決定者が初期リサーチしていれば、リサーチャーは目的ドリブンにリサーチ業務を進めやすい。無駄に立派なレポートを作らずに、短時間で意思決定に有効なリサーチができるだろう。もちろんリサーチャーの作業も生成AIで効率化される。
【図表:生成AIを活用した目的ドリブンなリサーチの進め方】

4. Web情報収集からレポート自動作成するWebサーベイAI「ロボリサ」

意思決定者が目的ドリブンに手軽にリサーチするには、使いやすい専用ツールが必要である。
当社はWebサーベイAI「ロボリサ」を開発した。自分が関心を持つ特定テーマについて、信頼できる情報源のみを毎日Webクローリングして情報収集する。収集時に要約・翻訳を自動で実行する。収集した情報はメールで毎朝送信するほか、データベースをWebブラウザで一覧表として見ることもできる。さらに、ユーザが質問項目やタイトルを入れると自動でレポートを作成できる。
毎日、Web検索してWebページをアクセスする時間や、外国語の読解にかかる手間も削減できる。自動レポート作成では、搭載された誤情報検知の機能によって、間違いを減らすこともできる。
【図表:WebサーベイAI「ロボリサ」の主要機能】
実際に当社では、約30のテーマについて200名以上の社員が利用している。リサーチにおけるWeb情報収集の時間を約8割削減できたと試算している。社員の声として、「要約でさっと理解できる。」「特に海外(非英語圏)ニュースが特に効果的」「自分の部署が欲しいサイトの情報を集められる」 「重要記事判定機能が共有すべき情報のピックアップに役立つ」等が寄せられている。
【図表:ロボリサの効果】

以下は、実際に自動生成されたレポートの例である。日米欧のAI規制の動きについてまとめた。不足はあるが、情報ソースを示した上でおおむね概況を捉えている。 なお、色の薄い項目は、誤情報検知AIによって、やや信頼性の低い記述であることを示している。
意思決定者の初期リサーチには役立つ内容をまとめることができるようになった。今後、さらにレポーティングの精度を向上させ、社内のリサーチ業務の効率化を図る予定である。
【図表:WebサーベイAI「ロボリサ」で自動生成した「各国政府のAI規制の動き」】

5. アンケート・ヒアリングにおける生成AI活用

リサーチにおける情報収集はWeb検索だけではない。消費者アンケートや専門家ヒアリングも重要な情報源である。アンケートやヒアリングは、 自社オリジナルの情報源であるだけでなく、リサーチ目的に沿った深い情報を得られる。しかし、時間と費用を要するのが課題である。

〇消費者アンケートにおける生成AI活用

ネットアンケートが登場して、消費者アンケートの実施は飛躍的に効率化された。質問票を送ればわずか数日で結果を得ることができる。しかし、アンケート設計やアンケート結果の取りまとめは未だ人手のかかる作業である。
生成AIは、アンケート設計にも役立つ。アンケート設計は、a.目的の定義、b.対象者の特定、c.仮説の立案、d.質問の設計、という手順を踏む。アンケート設計に慣れていないと難しい作業である。それぞれのステップにおいて、生成AIは以下のように役立つだろう。

a.目的の定義
  • ・アンケートで収集すべき情報について、生成AIに尋ね、目的の洗い出しを助ける。
  • ・アンケートの目的が明確か達成可能かを、生成AIに評価させる。
b.対象者の特定
  • ・既存顧客データや商品特性の情報を生成AIに与えて、対象となるセグメントおよびペルソナを提案させる。
c.仮説の立案
  • ・アンケート目的を与えて、仮説案を生成AIに考えさせる。
  • ・生成AIの提示した仮説案に対して、さらに深堀りしたり、他の仮説を尋ねたりを繰り返し、生成AIとの対話を通じて仮説をブラッシュアップする。
d.質問の設計
  • ・仮説を検証するための質問および回答選択肢を生成AIに考えさせる。
  • ・作成した質問案に対し、目的に合致しているか、明瞭であるかを評価させ、改善案を提案させる。

もちろんアンケート結果の取りまとめの各ステップにおいても生成AIは役立つ。

e.アンケート回答の分析
  • ・仮説の検証ためのクロス集計の方法を生成AIに提案させる
  • ・単純集計やクロス集計のデータ分析のコードを生成させ、実行させる。(ChatGPTのCode Interpreterが必要)
  • ・集計結果の数値列を、生成AIに文章として記述させる。
f.データ分析結果の考察
  • ・(ここだけは原則として人間の仕事であるが)分析結果の考察に対して、ロジックに間違いがないか、別の観点がないか等、評価させ、改善提案をさせる。
g.アンケートレポートの作成
  • ・単純・クロス集計結果や箇条書きの考察を、生成AIに文章に起こさせる。
  • ・レポート全体として、ロジックの不整合や読みやすさ等を生成AIに評価させ、改善案を提案させる。


〇専門家ヒアリングにおける生成AI活用

リサーチ対象分野の業界専門家や大学教員に対してヒアリングを実施することも多い。 専門家ヒアリングの各ステップの中で以下のような生成AI活用が考えられる。
a.ヒアリング目的の明確化
  • ・ヒアリングで収集すべき情報を明確化するために、生成AIにアイデアを問う。
b.専門家の選定
  • ・対象情報に詳しい専門家のタイプを生成AIにリストアップさせる。
    (ただし、ChatGPT等では具体的な人名は提案しない)
c.専門家の背景情報の収集
  • ・専門家の略歴や専門分野、業績等を、生成AIにまとめさせる。
    (ただし、個人情報保護のため、著名人以外の情報は出力されにくくなった)
d.ヒアリング項目の設計
  • ・専門家に対してヒアリングすべき項目を生成AIに提案させる。
e.ヒアリング結果のとりまとめ
  • ・ヒアリング面談の音声認識テキストに対し、生成AIにヒアリング項目に沿って要約させる。


〇生成AIによるインタビューボットの活用

消費者アンケートは、基本的には仮説を立証するものである。自由記述はあるにせよ、深い質問は難しい。
それを補うのがグループインタビュー(グルイン)である。数名の消費者を集め、 ファシリテータが次々と質問して、仮説の背景にある深い意向・関心・理由等を聞いてゆく。グルインは極めて有効であるが、非常に手間と時間がかかるためインタビュー人数が限られるのが難点である。

この問題を解決するために、当社はチャットボットを活用した住民インタビューボットを開発し、 2018年に実証実験を行っている(三菱総合研究所「AIを活用したインタビューボットで公共施設マネジメントの合意形成を支援」 )。 AIが参加者に対し、公共施設マネジメントについての意見を伺った。シナリオベースのチャットボットではあるが、対話を通じて掘り下げられた意見を多数集めることができた。
【図表:住民インタビューボットの仕組み】

生成AIでインタビューボットを実装すれば、消費者の多種多様な意見を集め、それを繰り返し深掘ることができるはずだ。インタビューボットの登場を待ちたい。

6. まとめ

企業に広く存在するリサーチ業務は周辺業務であることが多いが、担当者にとっては大きな負担である。WebサーベイAI「ロボリサ」等、生成AIを活用すればリサーチ業務は大きく効率化できる。消費者アンケートや専門家ヒアリングにも生成AIは役立つ。
また、意思決定者とリサーチ担当者が分かれているのは、リサーチ負荷とスキルの問題である。意思決定者が生成AIを用いて気軽に初期リサーチすれば、意思決定の目的に沿った焦点を絞ったリサーチができる。意思決定に効果的な目的ドリブンなリサーチに変えてゆきたい。

筆者

筆者 比屋根 一雄 株式会社三菱総合研究所 執行役員・研究理事 デジタルイノベーション部門 生成AIラボ センター長
比屋根 一雄
株式会社三菱総合研究所 執行役員・研究理事
デジタルイノベーション部門 生成AIラボ センター長

経済産業省のAIプロジェクトで研究リーダーを10年務める。ビッグデータ解析・AI技術を活用したDXコンサル&AIソリューション事業、および、社内のデジタル変革を主導する。専門は人工知能(AI)の技術・産業動向、社会インパクトの研究。10月より生成AIの活用を加速するため「生成AIラボ」を創設した。

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